ウクライナ経済や成長について各指標から見てみます

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ウクライナ経済状況や成長率を各経済指標から読み解く

各種経済指標から読み解くウクライナ経済状況

ロシアによる全面侵攻から2年が経過。ウクライナはロシアによる脅威に立ち向かいながら、日々生存のため戦っています。日本のニュースメディアではウクライナの前線の様子ばかりが伝えられ、ウクライナの経済の実態が伝わっていないかもしれません。確かにウクライナは戦時下にありますが、人と国が生きて存続していくために、働き、経済を回していかなければなりません。本記事では、ウクライナ政府が発表する統計をお伝えしながら、私達JoinJapanによる分析も加え、ウクライナの現状をできる限り客観的にお伝えしていきます。

ウクライナ経済統計の情報源

経済指標に関するデータは、ウクライナ国家統計局(The State Statistics Service of Ukraine)が随時サイト上にて発表しています。また、ウクライナ経済省ウクライナ国立銀行(中央銀行)などもサイト上に随時、経済に関するプレスリリースを発表しています。

ウクライナのGDP

ウクライナの経済の動向をまず初めに確認するため、GDPの統計を見てみます。

国家統計局の発表によると、ウクライナの2021年の実質GDP成長率は3.4%でした。2022年2月にロシアによるウクライナへの全面侵攻開始後、2022年のGDPはマイナス28.8%の大幅な減少を記録。しかしながら、2023年第2四半期には19.2%の大幅な成長に転じ、第3四半期は9.6%、第4四半期は4.7%の成長を記録。2023年通年では、5.3%の成長を記録しました。今後のGDPの見通しについて、ウクライナ中銀は、2024年の成長率を3%と見込むほか、2025年および2026年におけるGDPの伸びを4.5〜5%と見込んでいます。また、IMFの見通しでは、2024年のGDP成長率は3.2%、2025年は6.5%が予想されています。

上記の通り、ウクライナ経済は2023年に入って、底を脱したことが読み取れ、今後も経済の回復・成長が予想されています。しかしながら、戦争が続くことによるリスクの大幅な変動がありうることは、考慮に入れなければなりません。2023年通年の名目GDPは6兆5378億フリヴニャ(約25兆円)であり、日本の2023年の名目GDPである591兆円と比べると、日本の約23分の1の経済規模になります。

2023年のGDPについて、経済活動別にみると、農林水産が7.6%、製造が13.8%、建設が24.6%、卸売・小売・車両修理が6.6%、輸送・保管が5.6%、宿泊・飲食サービスが9%、情報通信が12.9%、不動産が10.6%、行政関係が5.8%、健康・社会福祉が4.1%と成長を記録しました。その一方で、鉱業・採石が-1.9%、電気・ガス・蒸気・空調供給が-1.8%、金融・保険が-8.3%、専門的・科学的・技術的活動が-1%、教育が-3.6%、芸術・エンターテイメント・レクリエーションが-4.4%とそれぞれマイナスを記録しました。上記をそれぞれ評価します。

・農業:

戦争の影響を受けたが、2023年は豊作の影響や代替輸出ルートの解説により、成長に転じた

・製造:

製造拠点をウクライナ西部に移転するなど、戦時下の情勢に適応。

・建設:

旺盛な復興事業の影響で、建設は大きな伸び。

・卸売小売:

戦時下の情勢に適応し、個人消費なども成長を始めた。

・情報通信:

ITは、戦時下でも成長中。ITに力を入れるウクライナ政府の方針と、戦時下でもリモートワークなどで戦争の影響を受けづらいこともあり、国の経済を支える基幹産業の一つとして更なる成長が予想される。

・鉱業:

ドンバス地方など鉱業が盛んだった地域がロシアの占領下または前線になってしまった影響を大きく受け、それが2023年も続く。戦争終結後に投資が入ってくるまで、大きな成長は厳しいか。

・電気ガス等の供給:

2023年2月ごろから、発電インフラなどへのロシアの攻撃が落ち着ついた(ウクライナ側の防空システムが機能した)ことにより、2023年は前年ほどの下落は防ぐことができた。

・教育:

多くの若者の国外流出が続く現状では、教育セクターの成長は厳しい。

・芸術エンターテイメント:

ロシアの攻撃や空襲警報により、大規模なイベントの開催が依然として不安定。

ウクライナの一人あたりのGDP推移

IMFが発表するウクライナの一人あたりのGDPをみますと、2023年の一人当たりGDPは5,340ドルです。2024年は5,660ドルまで成長することが予想されています。

出典:IMF

参考として、IMFの統計では、日本の2023年の一人当たりGDPは3万3810ドルであり、日本の約6分の1になります。

ウクライナのインフレ率

ウクライナの直近20年のインフレ率の推移は次のグラフの通りです。

出典:MinFin

2022年は、26.6%の大幅なインフレを記録しました。しかしながら、2023年に入りインフレ率は低下を続きています。2023年1月に前年前月比で26%のインフレ率だったのが、同年12月には5%まで低下しています。2024年通年のインフレ率について、ウクライナ中銀は8.2%と予想しています。

上記の20年にわたるインフレ率のグラフを見ますと、2005年から2008年ごろは新興国への投資が世界的にも注目されていたことがあり、毎年10%以上のインフレでした。しかしこの際は、景気も良く、人々の給料も大きく上昇していました。2008年のリーマンショックによる冷や水を受け、その後インフレは落ち着いていきます。2014年からはマイダーン革命、クリミア危機、ドンバス戦争と、国内の政治・経済に大きな変動があり、通貨も大きく価値を下げ、インフレ率も2015年には43.3%を記録しました。その後、ウクライナがヨーロッパ、西側経済との交流を深める中、経済は落ち着きを取り戻し、安定した成長を続けていましたが、コロナショックとロシアによる侵攻により、再び2022年にはインフレに見舞われた流れになります。

フリヴニャ(ウクライナ通貨)の対米レート

次にウクライナの通貨「フリヴニャ(UAH、通貨記号:₴)」について、見ていきます。

フリヴニャは2013年までは1米ドル=8フリヴニャでしたが、2014年初めからマイダン革命、クリミア危機、ドンバス戦争と続く中で、フリヴニャ安が続いていき、2025年2月には1ドル=30フリヴニャをつけました。その後、7年間は1ドルが24〜28フリヴニャの範囲で安定しました。ロシアによる全面侵攻が始まった2022年2月24日に、ウクライナ中銀は公定為替レートをその時点でのレートで固定(1ドル29.2549フリヴニャ)。以降は、オフィシャルのレート(ウクライナ中銀レート)と、街中の両替所でのレートが大きく乖離した状況が始まりました。その後、市中でのレートの乖離を反映するため、公定為替レートは、2022年7月21日には1ドル36.5686フリヴニャに引き下げられました。この一時的な固定相場制は、2023年10月2日に廃止され、翌3日には変動制に戻りました。2024年5月現在は、オフィシャルのレートと街中のレートの乖離はほとんどなくなってきています。総評しますと、フリヴニャはウクライナの政治・戦争の状況に大きく左右される通貨と言えます。

ウクライナの主要政策金利

ウクライナ国立銀行(中銀)が発表する政策金利の推移を見てみます。

2013年まではインフレ率の低下に合わせて、政策金利も低下。2014年からの政治・経済の混乱に合わせ、政策金利は2015年前半には30%まで上昇。その後、12.5%まで金利は低下するものの、2017年後半から2019年にかけては、アメリカが政策金利を2.4%まで段階的に上げたことも影響し、ウクライナの政策金利も18%まで上昇。その後、コロナショックにより政策金利は2013年依頼となる6%台まで低下。その後は、ロシアによる全面侵攻を受け、2022年6月3日にこれまでの10%から25%に大幅に引き上げ。2023年中頃からのインフレ率の低下や経済の回復を受け、ウクライナ中銀は段階的に金利を引き下げ、2024年5月は13.5%まで低下しました。政策金利は、ウクライナ中銀理事会の金融政策会合にて決定されます。会合の開催は不定期です。

ウクライナでは政策金利が高いこともあり、ウクライナで銀行口座を開設し、フリヴニャを定期預金することで、高い金利を受け取ることが可能です。戦時国債も外国人向けの取り扱いがあります。ご興味のある方は、ウクライナの専門家であるJoinJapanまでお気軽にお問い合わせください。

ウクライナへの海外直接投資(FDI)フロー

FDIとは、Foreign Direct Investmentの略で「海外直接投資」を意味します。海外からのウクライナへの投資の強さを図るうえで重要な指標です。

出典:MinFin

ウクライナへの海外直接投資(FDI)は、2005年に75億ドルと爆発的に増え、その後も2013年までは高い水準が続きました。2014年、2015年は国内の政治・経済の混乱を受け低迷しましたが、その後は再び大きな投資がウクライナに入りました。2020年のコロナで低迷するも、2021年には再び高い水準に。2022年は全面侵攻により6億ドルまで減少するも、2023年には早くも42億ドルまで回復しています。

JoinJapanでは、「戦時下でもウクライナに投資する外国企業について」をまとめてありますので、ぜひご一読ください。すでに戦時下においても西側諸国の企業からの投資フローが記録されているウクライナ。戦争が本格的に終わった場合、欧米からの巨額の投資が来ることは想像に難しくありません。この流れに日本も乗り遅れないため、今から準備が必要と言えるのではないでしょうか。

ウクライナの外貨準備高

通貨および経済の安定性を維持するためには、その国が貯めている外貨の額を測ることが重要であり、その指標が外貨準備高です。

ウクライナの外貨準備高をみますと、2008年のリーマンショックによる経済混乱までは一貫して準備高が増えています。その後、経済の低迷で一時的に減少するも、2011年5月にはその当時の最高額である383億ドルを記録。その後、フリヴニャのレート維持のために外貨を取り崩す流れが続き、また2014年の政治・経済の混乱を受け、準備高は56億ドルまで減少。10年間ためた外貨をすべて吐き出してしまいました。その後、準備高は毎年順調に蓄積されていき、2022年の全面侵攻で一時的に減少するも、2024年5月現在は過去最高となる437億ドルまで伸びました。

戦時下でも外貨準備高が伸びる要因としては、現在ウクライナは諸外国からの援助金を受け取っており、その際に政府の口座に外貨が大量に入金することが大きな要因です。しかしながら、戦争を維持するため、この資金は常に出ていくため、諸外国からの援助が先細りしていくことで、外貨準備高が不安定になる → フリヴニャのレートが不安定になる → ウクライナ経済が不安定になる というリスクは解消されていません。

そうは言っても、これだけ多くの外貨準備高を抱える現在は、通貨フリヴニャのレートを安定的に推移させるだけの力を、ウクライナ中銀はもっていると言えるでしょう。

ウクライナの貿易収支の推移

ウクライナの貿易収支(サービスを除く)について、分析していきます。

まず輸出高ですが、2021年には631億ドルと、2012年以来の高水準を記録するものの、ロシアの侵攻を受け、輸入は減少。戦前の水準まで回復するには時間がかることが予想されます。また、2023年の輸出を品目別にみると、鉱物性燃料の輸出が44.1%減少したほか、化学および化学関連産業分野製品(肥料を含む)が31%減、木材および木材製品が20.8%減、卑金属およびその製品が34.8%減、機械・装置・電気機械が29.8%の減でした。他方、穀物や、動物性及び植物性油脂、畜産物、車両・航空機・船舶および輸送機器関連品は、減少を記録したものの、減少幅は比較的軽微に抑えられました。また、加工食品は31%増加しました。

次に輸入高を見てみます。輸入高の推移も基本的には輸出高の推移と同じ動きをしています。特徴としては、輸入高の方が輸出高より常に多いということです。つまりウクライナは2005年からの統計を見る限り、常に輸入が多い(=貿易赤字である)状態が続いています。また、2022年の全面進行開始後においても、輸入高があまり減少していないことが特徴です。2022年には前年比で20%減少したものの、2023年には23%増加しています。これにより戦前の2021年には66億ドルの貿易赤字でしたが、2023年にはその赤字幅は323億ドルまで拡大しています。

2023年の輸入高を品目別に見ると、加工食品が23%上昇したほか、畜産物が14%増、化学および化学関連産業分野製品(肥料を含む)が19%増、卑金属およびその製品が29%増、機械・装置・電気機械が22%増、車両・航空機・船舶および輸送機器関連品が38%増、光学・写真装置が25%増を記録しました。他方、鉱物性燃料は19%減少しています。上記はこれらの情報を参考にしています。

ウクライナ政府債務残高の推移

出典:IMF

IMFによるウクライナの政府債務残高の推移(対GDP比)をみますと、2000年代前半は、ウクライナのGDPが拡大したことに合わせ、比率も下がっています。その後、2014年から2016年ごろは、政治・経済の混乱により比率が約80%まで上がってしまいました。その後、再びGDPの拡大に合わせ、比率も減少しましたが、2022年の全面侵攻により比率は大きく上昇。2023年は82.9%を記録しました。

ウクライナの人口の推移

出典:IMF

ウクライナの人口はソ連崩壊前後では、5000万人の人口を数えていました。その後は、国外への移民や90年代の経済の混乱による低出生率により人口が減少(2001年には歴代最低の出生率1.08を記録)。2000年代に入り、経済の好調により出生率が1.5まで回復するも人口減少のトレンドは変わりませんでした。

2014年にはクリミアとドンバス地方をロシアに奪われたことにより、それら地域の人口をウクライナは失い、2022年の戦争開始後は、新たにロシアに占領された地域の人口を失ったことと、国外への数百万人規模の難民を出したことにより、2023年のIMF推定人口は3320万人となっています。

国外難民の多くが女性であることもあり、ウクライナ国内で生まれる子供は戦争以降、大きく減り、出生率がさらに減っています。また、一部では、戦争開始後に国外に避難した半数以上のウクライナ人が今後ウクライナに戻らないとの世論調査もあり、人口問題は危機的な状況にあると言えるでしょう。

ウクライナ社会政策省が2024年3月に出した人口に関する報告書では、2023年8月時点のウクライナの人口(ロシア被占領下の地域を除く)が3150万人と推定されています。戦争の影響により、平均寿命は男性が66.4歳から57.3歳に減少。女性も76.2歳から70.9歳に減少しています。この報告書では、2050年までにウクライナの人口が2520万人まで減少することが予測されています。

ウクライナ経済についての総評

ウクライナ経済は現在、戦争という暗い影を落としています。上記のような各種指標を確認していても、明るい話題が多いとは言えません。しかし、戦時下で多くの強烈な困難に直面しているがゆえに、ウクライナ国民の強靭さがより一層増しています。国際社会の支援により、着実に復興への道も見えてきています。インフラ再建や外国投資の呼び込みが進み、ITやアグリビジネスなどの有望な産業が成長の原動力となっています。

ウクライナには豊富な資源や優秀な人材があり、そのポテンシャルは計り知れません。平和と安定が達成され、構造改革が進めば、ウクライナ経済は大きく飛躍することでしょう。困難な時期を乗り越え、平和で繁栄した未来を築くために、ウクライナ国民は希望と勇気を持って前進しています。国際社会もウクライナの経済成長を後押しし、明るい未来の実現に向けて共に歩んでいます。ウクライナの経済成長には、輝かしい可能性が秘められています。戦争の傷跡を乗り越え、平和と繁栄の未来へ向かって、ウクライナは力強く歩み続けるでしょう。

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