ウクライナドローン軍

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ウクライナドローン軍

ウクライナはロシアとの戦争を無人戦争に変貌させつつあります。20世紀型の戦車、戦闘機、ミサイルの戦争ではなく、21世紀型の無人システム、AI搭載装備による無人戦争です。よく目にする小型の空飛ぶドローンではなく、

・ロシア領土(1000Km以上遠く)にある敵の軍事施設やエネルギー施設の爆破を目指して飛ぶドローン

・黒海からウクライナに向けてミサイルを飛ばしてくる大型の戦艦を海底に沈める海上無人艇

・敵陣を偵察したり輸送を行う無人ヘリコプター

・味方の負傷兵を激戦地から救い出す無人担架バギー

・最前線に躍り出て敵陣を殲滅させる無人戦闘システム

・遠隔操作できる機関銃システム

・海中から敵陣に乗り込み、大型戦艦を爆破できる水中ドローン

・海中地雷除去用の水中ドローン

鉄のかたまり同士のぶつかり合いだった20世紀型の戦争から、人が遠隔で兵器を操縦し、敵兵力をそぎ落とす21世紀型の戦争にウクライナは舵を切りました。ウクライナは、持ち前のIT技術力を駆使し、人工知能(AI)搭載の兵器の開発を進めています。防衛スタートアップは500社を超える勢いで増え続けています。諸外国からもウクライナのDiiaアプリケーションを通じて、ウクライナに防衛企業を設立する会社が増えました。

考えてみれば、ロシアに比べると、経済力も人口も影響力も、圧倒的に小さい国であるがゆえに、ひとりでも多くの国民の命を守らなければなりません。無人戦争によって、兵士の死傷者は減り、屈強な男性兵士でなくとも、普段ゲームしかしていないオタクや、もっと言えば専業主婦でも戦いに参加する(無人システムを操縦)することができます。そしてそのための特殊な訓練施設や訓練方法をウクライナ軍は確立し、各地に幅広く展開しています。

100万機のドローン

本格的な戦争が始まった2022年からの2年で、UAV(無人航空機)の役割とUAVに対する考え方は劇的に変化しました。2年前、『前線じゃあ役に立たないよ』と言われていたUAVは、今日、敵陣の数百万~数千万ドルの装備や施設を破壊し、敵への優位性を生み出し、そして何より、それによって多くの自国兵士や国民の命を守っています。落とさなくても良い命を救っているのがドローン軍です。空でも、陸でも、海でも、水中でもです。ウクライナは本格的な無人戦システムを導入し、戦闘でも特殊作戦でも、無人化を徹底して推進しています。

ウクライナは、アメリカからの軍事支援が先細る中で、生き残るために、テクノロジーを使って戦場に適応しようとしています。小学生までもが、FPVドローン(一人称視点で操縦する無人機)の組み立て講座を受講しています。そして、日々、大統領も最高司令官も国防相も、演説の中でドローンの重要性を語り、ドローン、電子戦、技術革新という言葉を聞かない日はありません。2024年、ウクライナに無人システム部隊という独立した部隊が創設されたことは、ドローンがゲームチェンジャーになったことを証明しています。

ウクライナドローン軍は、2022年7月に立ち上げられてから、大統領と首相、国防省、国家特殊通信局、ウクライナ軍参謀本部の協力のもと加速度的に大きなプロジェクトへと発展した経緯があります。プロジェクトの主な成果としては、

・2023年、30万機以上のUAVが契約され、90%がウクライナ製の無人機でした

・2023年、治安部隊と防衛部隊は10万機以上の様々なタイプの無人機を受領しました

・ウクライナにはUAVを製造する企業が200社以上に増えました

・国内メーカーは生産規模を100倍に拡大し、ウクライナでの部品生産を現地化しました

・67機種のウクライナ製UAVが政府と契約しました(2022年夏には7機種)

・約2万人のUAVパイロットが訓練を受けました

・1万6000以上の敵の標的を攻撃しました(戦車、装甲兵員輸送車、要塞など)

・黒海の状況を一変させました(ロシアの艦船を破壊し、クリミアの橋も攻撃)

・2024年、大統領は、新しい軍隊、無人システム軍の創設に関する法令に署名しました

・2024年、NATOのストルテンブルグ事務総長はウクライナに100万機のドローンを提供すると発表しました

・2024年、ウクライナは100万機のFPVドローン、1万機以上の中距離攻撃用ドローン、そして1000キロ以上の射程を持つ1000機以上のドローンを生産する計画を発表しました(オレクサンドル・カムイシン戦略産業大臣)

2024年、ウクライナは、本格的な無人戦争を進めています。そしてそのためには、重要なステップがあり、政策の変化、市場の開拓と拡大、業界の革命的変化、そして国民1人1人がドローン軍の重要性を理解しサポートする必要があります。

ウクライナドローン軍 UAV(無人航空機)市場発展のための条件整備

ウクライナは持ち前のIT技術力を活かし、防衛技術の開発を最大化し、無人機の大量生産を活性化するため、政府に調整本部が設置されています。毎月何機、どんな種類の無人機が必要なのか、誰がそれを製造できるか、など、細かいところまでをコントロールしています。同時に無人機の運搬、保管、操縦訓練、教官育成、試験運用、部品輸入、各国や軍需産業からの支援取り付けなども並行して行われています。もちろん無人機の課題として、

・AIによって、敵と味方(例:戦車や兵員)を識別できる方法

・AIによって、敵の電波妨害装置の影響を受けない方法

・敵の兵士をことごとく殺傷するパイロット(操縦士)のPTSDや心の傷を癒す方法

も開発や対策が行われています。1年半の間に、ドローン戦争、無人戦争にとって優位な土台を作るため、イノベーションと技術開発のための市場開放を可能にする約20の革命的な決議を採択しています。ドローンの生産と前線への納入、部品の輸入、あらゆる手続きは簡素化され、税金は撤廃され、日々迅速化されています。また、ドローン用弾薬の市場も活性化しています。あらゆる優遇措置と簡素化のおかげで、国内メーカーは生産規模を100倍に拡大できました。1年前、月に100機のドローンを生産するメーカーが今では数万機です。

ウクライナドローン軍、種類も生産台数も飛躍的に拡大している背景

ウクライナは、ドローン戦争、無人戦争に勝利するために、無人機の生産規模を拡大し続けています。ウクライナの製造業者が生産規模を拡大できるように、2023年、ウクライナ国家は400億UAH(およそ1600億円)の予算を割り当てました。GDP差(日本はウクライナの25倍)で換算すると、日本であれば実に4兆円を自国のドローン軍に割り当てているようなものです。必死です。

その結果、ウクライナのある特定のグループのUAVの購入は、2022年と比較して100倍以上増加しています。例えば、2022年には500機のFPVカミカゼが購入されましたが、2023年には200倍の10万機が購入されています。戦場から届くフィードバックや戦果によって、需要も刻々と移り変わります。300㎞以上飛行できる長距離カミカゼの購入数は50倍に増えています。一晩に最大10回出撃し、数十台の敵車両を破壊できる再利用可能なドローンの購入数は80倍に増加しました。敵地の偵察に役立つマヴィック・ドローンも2022年と比べ70倍購入しています。2024年は、更に多くの予算や各国、NATO、投資家(※)からの支援があるため、更に何倍ものペースでドローン軍は拡大し続けることでしょう。もちろん、パートナーに透明性を示せるよう、汚職防止機関(NABUやSAP)との連携も欠かせません。

※例えば、Googleの元CEO 、エリック・シュミットは、人工知能(AI)を搭載した特攻ドローンを開発するスタートアップ、White Storkを立ち上げ、生産したドローンはウクライナドローン軍に納品します。

ウクライナドローン軍、UAVオペレーター(≒操縦士、パイロット)の訓練

ただドローンを前線に送るだけでは効果がなく、UAVオペレーターを訓練し、最前線で軍がドローンを自由自在にコントロールできる必要があります。敵によるドローンの撃墜や電子戦による損失を最小限に抑え、敵陣の偵察任務を遂行し、そしてそこを破壊するためにドローンを自由自在にコントロールできるのは、経験を積んだプロのオペレーターのみです。天候も考慮しなければなりません。

ウクライナドローンの軍は、すでに約2万人のUAVオペレーターが訓練を受けています。ドローンにも様々な種類、任務があり、それぞれ分けて訓練を行います。軽い偵察、深い偵察、施設の破壊、兵器の破壊、塹壕の破壊など、敵陣や敵兵器の弱い部分はどこか見極める知識も必要です。訓練は実践に極めて近い環境で行うことが大切で、ゲームのようにはいきません。ウクライナは更に10倍の20万人のパイロット(ドローン操縦士)を育成しようとしています。

ウクライナドローン軍のUAV攻撃中隊

ウクライナは無人戦争に向け、世界初の試みとして、UAV打撃部隊を編成しています。この部隊は、ドローンを使用する際の管理とドクトリンに対する新しいアプローチの下で活動しています。現在、ウクライナ軍には67の打撃部隊があり、前線でのドローン使用の効率の高さを実証しています。先述のとおり、攻撃型UAVにも多くの種類があり、任務の複雑さも様々です。UAV攻撃中隊は、敵兵、装備、施設を破壊し続けており、ウクライナ国家警備隊の中隊、ウクライナ治安局の部隊とも連携しています。すべての攻撃をビデオで確認しながらレポートを作成しているため、いつどこで何をどれだけ破壊することに成功したか、明確な記録が残っています。

ウクライナドローン軍 海上カミカゼ

2万人のUAVオペレーター(ドローン操縦士)がすでに訓練を受けていることを書きましたが、それ以外にもすでに前線で任務を遂行している操縦士がいます。彼らは海上カミカゼを自由自在に操っています。ロシアによる侵攻当初、ウクライナは、海からのロシアの攻撃に何も対抗することができませんでした。しかし今はどうでしょう。ウクライナの海上ドローンが状況を一変させました。まさに戦争のゲームチェンジャーを実現した海上カミカゼです。

海上ドローン『MAGURA V5』は、監視、偵察、パトロール、捜索救助、機雷掃海、海上警備など、さまざまな作戦を実行できるウクライナ独自の開発品で、最も重要な任務は『海での戦闘任務』です。『MAGURA V5』の弾頭は320kgあり、敵艦をより効果的に破壊することができます。衛星や無線ネットワークを介して制御され、船首にビデオカメラがあり、オンラインで画像を送信できるため、敵艦がどのように沈むかを鑑賞することができます。海上ドローン『MAGURA V5』 は、遠隔地からでも簡単に発進させることができ、無人操縦によって、任務遂行のための人的資源を最小限に抑えることができる優れものです。敵艦を海の底に沈めることで、ウクライナ領土へのミサイルの発射を未然に阻止し、多くの人命を救うことができます。『MAGURA V5』 のほかにも、海上用ドローンを製造している企業があり、例えば、MarichkaやSeaBabyなどの海上ドローンもそうです。ウクライナのメーカー間には競争があり、常に改良と強化が行われています。

ウクライナドローン軍が活用する状況認識システム

陸・海・空・サイバー空間、戦場では、いかに状況を正しく把握するかが重要です。間違った判断をすれば、多くの兵士の命を失うことになります。ウクライナ軍は、毎分毎時、状況認識システムによって、リアルタイムに戦争を管理しています。ウクライナ軍が、全長1000㎞を超える戦線で、圧倒的に劣る砲弾数の中でも、ロシア軍を撃退し続けれているのは、この状況認識システムが正しく機能しているからということも言えます。

2022年6月、ミハイロフェドロフ大臣は、アメリカのパランティア社のアレックス・カープCEOに会っています。本格的な戦争のさなかにキーウを訪れた最初の国際企業のCEOがアレックス氏でした。それ以来、パランティアは防衛、セキュリティ、デジタル技術の分野でウクライナのパートナーになっています。パランティアは、戦場で役立つ世界最高の状況認識システムを開発しており、ドローン、偵察機、衛星画像など、さまざまなソースからの情報がリアルタイムで1つのデジタルシステムに統合されます。各部隊がこのシステムにアクセスでき、つまり、ウクライナ軍指揮官の誰もが、リアルタイムで戦況を見ることができるようになっています。戦況について多くの情報を得ることで、効果的に調整し、作戦を計画し、目標を選択し、敵の位置を把握することができています。また、よりスピーディーに戦術を変更したり、軍事戦略を構築することも可能になります。

ウクライナ開発『デルタ』状況認識システムも画期的です。デルタは、航空偵察、衛星、ドローン、チャットボットからの情報など、さまざまなソースからの敵に関するデータを表示してくれます。多くのミッション、防御作戦、攻撃作戦は、このデルタを使って計画されています。デルタにより、すべてのドローンをリアルタイムで確認できるようになり、各ドローンと各パイロットがどこに何回出撃したか、前線でドローンが足りてない場所はどこかなど、多くの情報を管理でき、より適切な判断ができるようになっています。

ウクライナドローン軍が解決すべき問題


ウクライナ軍が戦場で優位に立つためには、ただ多くのドローンを開発・生産し、前線に送り届けるだけではダメです。例えば下記のような問題は解決すべきです。

・ドローンの流通とそのロジスティクスは、最大の課題です。攻撃UAVを1晩で10回出撃させ、何百台もの敵車両を破壊する超効率的な部隊がいるのに、彼らにUAVが行き渡らないケースがあります。

・ドローンの要件の標準化も課題です。機器によって様々な異なる特徴があると、差し迫った最前線での使い手は混乱することもあります。ドローンメーカーの技術仕様を標準化することも大切です。

・無線周波数帯域の分配も課題です。UAVが1つのエリアに集まると、周波数全体を占有(飽和)し、飛行できなくなる可能性があります。明確な無線周波数計画を策定し直す必要があります。ウクライナ軍の無人機がどの周波数で運用され、ロシア軍の無人機がどの周波数を使用しているか、全体を理解、管理しなければなりません。そうすることで、敵のドローンのみを妨害することが可能になります。

・UAVオペレーターの訓練も課題です。ドローン軍に必要なのは数千人や数万人ではなく、数十万人です。これは陸軍の独立した国家訓練プログラムとすべきです。

・ドローン用の弾薬増産も課題です。政府はUAV用弾薬の量産を開始しましたが、前線では弾薬が決定的に不足しています。2024年現在、民間企業が合法的に製造できるようになったため、国内弾薬メーカーが増えると予想されています。そうすれば、ウクライナ軍のニーズをより早く満たすことができるでしょう。

ウクライナドローン軍 人工知能AI(テクノロジー)戦争

ドローンが敵の電波妨害にあっても目標を見失わないことが重要です。ウクライナ(UKRAINE)では、目標捕捉のためのAIとコンピューター・ビジョン(CV)技術の開発が進み、現在、約20社がドローンに実装するAI(人工知能)開発に取り組んでいます。2024年春頃には、AI技術を搭載したFPVドローンの大規模な利用が見られるでしょう。

CVはドローンの目のような役割を果たし、ビデオストリームをリアルタイムで分析して物体を検出・識別しています。アルゴリズムは、敵の車両、大砲、歩兵など特定のターゲットを区別することができ、ターゲットがロックオンされると、CVはその動きを追跡し、ドローンの操作システムにデータを送信します。

AIは副操縦士の役割を果たします。多くのパラメーターに従って目標に優先順位をつけ、オペレーターの弾道を支援し、目標の軌道を予測し、正確に狙いを定めるのを助け、一時的に視界から消えた場合に備えて目標を記憶しています。この機能により、ドローンは短時間姿を消したターゲットを再捕捉し、継続的な監視を確保することができます。CVとAIの使用により、ドローンオペレーター(操縦士≒パイロット)の状況認識と意思決定能力を向上させます。

ウクライナドローン軍 ロボット開発

陸軍の最前線で兵士を助けるためには、陸上ドローンの開発・生産が必要です。陸上ロボットは、射撃(攻撃)、荷物の運搬、負傷者の避難、地雷除去などを行うことができます。兵士は塹壕の中から数キロ離れた場所のロボットを遠隔操作することができます。また、UAVと同じく陸上ドローンにおいても効果的な電子戦システムが必要です。

ウクライナドローン軍から日本にお伝えできること

ウクライナは、世界2位の軍事力を持つロシア軍に侵略されました。日本の隣には、世界3位の軍事力を持つ中国がいます。ロシアの兵力は115万人、ウクライナの兵力は70万人です。中国の兵力は230万人、日本の自衛隊は23万人、中国には日本の10倍の兵力があります。

21世紀、このような侵略戦争は起きないと思っていました。しかし、目の前で起きました。ヨーロッパのどの国も、全く準備ができていませんでした。ロシアのような国はルールは重んじません。恐怖と嘘で人や国家を操ります。そのような国はロシアだけではありません。そのような国は、勝てると踏んだら攻めてきます。力が全てです。そのような国は、言葉ではなく、彼らの『おこない』をみないといけません。

ウクライナは、日本にたくさんの支援をしてもらっている分、日本の将来の防衛に貢献したいと思っています。ウクライナはロシアから侵略されたことで多くの経験を積みました。この戦争は、ハイブリッド戦争、ドローン戦争、AI戦争、サイバー戦争、20世紀型の古い戦争などなど、色々な呼ばれ方をしており、実際に色々な側面があります。そのすべての情報や経験を日本と共有し、日本や台湾の防衛に役立ててください。

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