デュアルユース スタートアップ

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デュアルユースのウクライナスタートアップ

デュアルユース(dual-use)スタートアップとは、軍事用途と民生用途の両方に応用可能な技術やプロダクトを開発している企業のことを指します。デュアルユース技術は、当初は軍事目的で開発されたものの、民生分野でも幅広く活用できる技術を指します。そして、このデュアルユースのスタートアップにおいてウクライナは急激な伸びを見せています。生きるか死ぬか、やるかやられるか、ウクライナはもう何年もそういう状況です。自分の命、家族の命、国の命運をかけた戦いに勝たねばなりません。ウクライナは、AI、ドローン、ロボット、サイバー戦などのデュアルユース分野において、世界トップの伸び率となっていることは間違いないでしょう。

デュアルユーススタートアップの特徴

デュアルユーススタートアップの特徴として以下が挙げられます。

技術の応用範囲

軍事用途だけでなく、民生分野でも高い需要が見込める技術を開発しています。

資金調達

軍関連の契約や補助金に加えて、民間投資家からの出資も受けることができます。

市場の多様性

軍事市場と民生市場の両方を対象とすることで、事業リスクを分散できます。

倫理的な考慮

軍事技術の悪用を防ぐため、倫理的な配慮とコンプライアンスが求められます。

デュアルユース技術の例としては、GPS、インターネット、ドローン、人工知能、ロボティクス、サイバーセキュリティ、バイオテクノロジーなどが挙げられます。これらの技術は、軍事分野で開発・応用された後、民生分野でも広く活用されるようになりました。デュアルユーススタートアップは、軍事と民生の両方の市場をターゲットにすることで、技術革新を促進し、社会に幅広い影響を与える可能性を持っています。一方で、軍事技術の悪用を防ぐための倫理的な配慮も求められます。

デュアルユーススタートアップが盛んな国

デュアルユーススタートアップは、軍事技術と民生技術の両方が発展している国や地域で特に盛んです。以下は、デュアルユーススタートアップが活発な国と地域の例です。

アメリカ合衆国

国防総省のDefense Innovation Unit(DIU)や、シリコンバレーのスタートアップエコシステムが、デュアルユース技術の開発を促進しています。

イスラエル

軍事技術の開発が盛んで、多くのスタートアップが軍事技術を民生用途に応用しています。

中国

政府の支援を受けて、軍民融合(Military-Civil Fusion)政策を推進しており、デュアルユース技術の開発が活発です。

ロシア

軍事技術の開発が盛んで、一部の技術は民生用途にも応用されています。

イギリス

国防省のDefence and Security Accelerator(DASA)が、デュアルユース技術の開発を支援しています。

フランス

国防イノベーション庁(Defense Innovation Agency)が、デュアルユーススタートアップを支援しています。

日本

防衛装備庁が、デュアルユース技術の開発を推進しています。

シンガポール

経済開発庁(EDB)と国防科学技術庁(DSTA)が、デュアルユース技術の開発を支援しています。

韓国

防衛事業庁(DAPA)が、デュアルユース技術の開発を推進しています。

ウクライナ

ロシアとの紛争を背景に、軍事技術の開発が加速しており、一部の技術は民生用途にも応用されています。

これらの国や地域では、政府の支援や軍事と民生の連携が、デュアルユーススタートアップの成長を後押ししています。また、技術力の高い大学や研究機関、活発なスタートアップエコシステムも、デュアルユース技術の開発に貢献しています。特に2022年以降は、ウクライナのデュアルユーススタートアップが盛んで、例えばドローンだけで年間300以上のスタートアップが登場します。

デュアルユーススタートアップの投資家

デュアルユーススタートアップには、様々な投資家が関心を持っています。主な投資家のタイプは以下の通りです。

政府系ファンド

国防関連の研究開発を支援する政府系ファンドが、デュアルユーススタートアップに投資することがあります。

軍事関連企業

大手の防衛関連企業が、デュアルユーススタートアップを買収したり、戦略的提携を結んだりすることがあります。

ベンチャーキャピタル(VC)

高い成長性を求めるVCが、デュアルユーススタートアップに投資することがあります。特に、軍事技術の民生応用に興味を持つVCが多いです。

エンジェル投資家

個人の裕福な投資家が、デュアルユーススタートアップに投資することがあります。中には、軍事関連の経験を持つ投資家もいます。

インパクト投資家

社会的インパクトを重視する投資家が、デュアルユース技術の社会的応用に関心を持つことがあります。

機関投資家

年金基金や保険会社などの機関投資家が、安定的なリターンを求めてデュアルユーススタートアップに投資することがあります。

クラウドファンディング

一般の人々から少額の投資を募るクラウドファンディングで、デュアルユーススタートアップが資金調達することがあります。

これらの投資家は、デュアルユーススタートアップの軍事と民生の両方の市場における成長性に着目しています。また、技術のスピルオーバー効果(軍事技術の民生応用による経済的利益)にも関心を持っています。ただし、デュアルユース技術には倫理的な懸念もあるため、投資家は慎重にデューデリジェンス(投資先の詳細調査)を行う必要があります。デュアルユーススタートアップへの投資は、高い収益性とともに、倫理的な責任も伴うと言えるでしょう。

デュアルユーススタートアップの問題点や課題

デュアルユーススタートアップには、いくつかの問題点や課題もあります。

倫理的懸念

軍事技術の悪用や、プライバシーの侵害など、倫理的な問題が生じる可能性があります。特に、自律型兵器やサーベイランス技術など、悪用されるリスクの高い技術については、慎重な配慮が必要です。

規制の複雑さ

軍事技術は厳しく規制されているため、デュアルユーススタートアップは複雑な規制に対応する必要があります。輸出規制や機密情報の取り扱いなど、コンプライアンスの負担が大きくなることがあります。

市場の不確実性

軍事市場は予算の変動が大きく、政治的な影響を受けやすいため、安定的な収益を確保することが難しい場合があります。また、民生市場への参入にも、技術の転用や市場開拓の難しさがあります。

知的財産の保護

デュアルユース技術は、機密性の高い情報を扱うため、知的財産の保護が重要です。特許戦略や情報管理体制の構築に、特別な配慮が必要となります。

人材の確保

デュアルユース技術の開発には、高度な専門性を持つ人材が必要です。軍事と民生の両方の知識を持つ人材は限られているため、人材の確保が難しい場合があります。

資金調達の難しさ

デュアルユーススタートアップは、軍事技術への投資に慎重な投資家もいるため、資金調達が難しい場合があります。また、規制の複雑さから、デューデリジェンスに時間がかかることもあります。

社会的受容性

軍事技術への関与に対する社会的な批判や、倫理的な懸念から、デュアルユーススタートアップが社会的な受容性を得ることが難しい場合があります。

これらの問題点や課題は、デュアルユーススタートアップが持続的に成長していくために、慎重に対応していく必要があります。倫理的な配慮、コンプライアンス体制の整備、知的財産の保護、人材の育成、社会との対話など、多面的な取り組みが求められると言えるでしょう。

デュアルユーススタートアップの将来性

デュアルユーススタートアップの将来性を、ポジティブな側面から見ると、以下のような点が挙げられます。

イノベーションの加速

デュアルユーススタートアップは、軍事と民生の両方のニーズに対応するため、革新的な技術開発を推進します。厳しい要求条件を満たすために、高度な技術力が求められ、結果としてイノベーションが加速される可能性があります。

市場機会の拡大

軍事市場と民生市場の両方を対象とすることで、デュアルユーススタートアップは大きな市場機会を獲得できます。軍事での実績が民生での信頼につながり、民生での実績が軍事での採用を後押しするという好循環が生まれる可能性があります。

社会的価値の創出

デュアルユース技術は、防災、インフラ保護、医療、環境監視など、様々な社会的課題の解決に貢献できます。軍事技術の民生応用により、社会の安全性や利便性が向上し、人々の生活の質が改善される可能性があります。

経済的波及効果

デュアルユース技術の民生応用は、新たな産業の創出や雇用の拡大につながります。軍事からスピンオフした技術が、民生分野で広く普及することで、経済全体の生産性が向上し、イノベーションが促進される可能性があります。

国際競争力の強化

デュアルユーススタートアップが生み出す革新的な技術は、国際的な競争力の源泉となります。軍事と民生の両方で高い技術力を持つ企業は、グローバル市場で優位に立つことができ、国全体の競争力強化にもつながります。

人材の育成

デュアルユース技術の開発には、高度な専門性を持つ人材が必要とされます。デュアルユーススタートアップが活躍することで、軍事と民生の両方の知識を持つ貴重な人材が育成され、国全体の技術力の向上に寄与する可能性があります。

これらのポジティブな側面は、デュアルユーススタートアップが社会に大きな価値をもたらす可能性を示しています。技術のスピルオーバー効果により、軍事と民生の垣根を越えたイノベーションが促進され、社会全体の発展に貢献することが期待されます。デュアルユーススタートアップが、倫理的な配慮を怠ることなく、技術の健全な発展を追求していくことが重要だと考えられます。

ウクライナのデュアルユーススタートアップの強みとポテンシャル

ウクライナのデュアルユーススタートアップには、いくつかの強みとポテンシャルがあります。

高い技術力

ウクライナは、IT分野で高い技術力を持つ国として知られています。特に、サイバーセキュリティ、人工知能、ロボティクスなどの分野では、世界的にも競争力のある人材を輩出しています。この技術力は、デュアルユーススタートアップの強みとなっています。

軍事との連携

ロシアとの紛争を背景に、ウクライナ軍は国内のスタートアップとの連携を強化しています。スタートアップの技術を軍事に活用することで、イノベーションが促進され、実戦での検証も行われます。この軍事との連携は、デュアルユーススタートアップにとって大きな強みとなっています。

国際的なネットワーク

ウクライナのスタートアップは、欧米諸国やNATO諸国とのネットワークを構築しています。これにより、技術の共同開発や、グローバル市場への展開が容易になります。また、ウクライナ危機に対する国際社会の関心の高まりは、ウクライナのスタートアップにとって追い風となっています。

豊富な人材

ウクライナには、高い教育水準と技術力を持つ人材が豊富に存在します。また、ロシアとの紛争を背景に、愛国心を持つ若者がスタートアップに参加する動きも見られます。この豊富な人材は、デュアルユーススタートアップの成長を支える重要な要素となっています。

社会的な意義

ウクライナのデュアルユーススタートアップは、国防力の強化だけでなく、社会的な課題の解決にも貢献しています。例えば、ドローン技術は農業や環境監視に活用され、サイバーセキュリティは重要インフラの保護に役立てられます。この社会的な意義は、スタートアップの価値を高め、支援を得やすくしています。

政府の支援

ウクライナ政府は、デュアルユーススタートアップを重要な戦略産業と位置づけ、支援を強化しています。規制の緩和や、資金援助などの施策が行われており、スタートアップの成長を後押ししています。

これらの強みとポテンシャルを活かすことで、ウクライナのデュアルユーススタートアップは、国内外で大きな存在感を示すことができると考えられます。技術力と社会的意義を兼ね備えた彼らの取り組みは、ウクライナの未来を切り拓く原動力になるでしょう。

ウクライナのデュアルユーススタートアップの例

Buntar Aerospaceは、ウクライナのdefense-techスタートアップで、2023年夏に設立されました。共同創業者はIvan Kaunov、Kateryna Bezsudna、Bohdan Sasの3名です。同社は現在、以下の3つのプロジェクトに取り組んでいます。

① Buntar 1: 最大80kmの長距離偵察が可能な無人航空機システム

② ミッション計画の自動化ソフトウェア

③ GPSが使えない環境下で機能するAIベースのナビゲーションシステム

同社は既に100万ドル以上の資金調達に成功しており、現在25名の専門家が在籍しています。また、自社生産施設を保有しています。今後の計画としては、さらに3機のドローンの資金調達、試験の実施、国家認証の取得、今夏の実戦配備を目指しています。Buntar Aerospaceは、ウクライナ国内外の顧客からの受注により、初回の契約で収益性を達成できると考えています。また、戦後もウクライナの防衛産業の発展に貢献し、今後30~50年にわたって使用される軍事製品の開発を目指しています。同社は、ウクライナの防衛産業の発展には、スタートアップと国家の協力、アクセラレータープログラムの存在、研究開発への投資拡大が不可欠だと指摘しています。

Drillは、英国を拠点とするウクライナ人のデュアルユース(ミリタリーテック)のスタートアップで、シューティングゲーム用のアプリを開発しています。それはまるでフィットネス・アプリのようなもので、射撃選手のためのエクササイズ(トレーニング)を行うアプリです。銃の所有者や銃の使い方を学びたい人、上手になりたい人のためのもので、エクササイズを見て、繰り返し練習を行います。Drillは、射撃選手のためのインフラ全体を構築する計画を持っており、将来的には、このアプリで射撃に関連する経験、大会、イベント、射撃場、コーチなどの情報を共有できるようにするビジョンを持っています。

創業者のAlexanderとIgorは2021年末にDrillの開発を始め、当初はピストルのコースから始まり、その後ライフルの講座も追加しました。Drillは、ウクライナとポーランドですでに運用(法人化)されており、2023年末にアメリカ市場への進出を発表しています。現在すでにアメリカ市場進出を進めており、アメリカ市場におけるプロモーションのための投資先も探しています。

アプリはウクライナでは無料で提供されていますが、他の国ではサブスクリプションとフィードバック機能で収益化しています。同社はこれまでに自己資金と助成金で約13万ドルを調達しており、さらに70万ドルの投資を求めています。アメリカで事業を展開するために現地法人を設立し、現地のチームを雇用する計画ですが、ウクライナにいることによるリスクを懸念する投資家もいるようです。

ミリタリーテック、デュアルユースはニッチな分野であり、投資家の関心を集めるのは容易ではありませんが、Drillは民間の射撃愛好家をターゲットにすることで市場の可能性を広げようとしています。

随時、デュアルユースのスタートアップを調査し、公開できる範囲で掲載してきますので、お楽しみに!

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