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ウクライナスタートアップは2200社ありました。が、昨今はロシアとの戦争により防衛系スタートアップの市場が急拡大したため、およそ2500~2600社ほどのスタートアップが存在しています。防衛系は、例えば陸海空のドローン開発、電波妨害技術、兵士のヘルスケアなど多種多様です。ウクライナのスタートアップに投資している人達はどんな点に気を付けているか、紐解いていきます。
戦時中にも関わらずウクライナのスタートアップに投資し続けているのはGoogleだけではありません。世界のVCや個人投資家達はウクライナのスタートアップから一瞬たりとも目を離さない状況が続いています。彼らは、積極的にスタートアップを探し出し、創業者、価値観、経験、ビジョン、情熱、使命を確認しています。そしてひとたび彼らの琴線に触れるスタートアップがいたら、それこそ秒速で投資しています。彼らの調査チームはとてもしっかりしています。
投資家にとって、スタートアップの創業者のAmbition(野心)はとても重要です。創業者が自社の製品をどのように思い描いているか、3年後、5年後、または10年後にどうなっていてほしいか、そのビジョンを明確に描けているスタートアップに出会えた時は、毎回鳥肌が立つそうです。そしてもちろん、『ユニコーンに成長させたい』という強い希望も大切です。
例えば投資家は、スタートアップの顧客レビューから内部財務文書に至るまで、さまざまな指標を分析、デューデリジェンス、評価します。スコアリングモデルを含む大きなファイルがあり、主観的にならずに数値に基づいて意思決定を行うケースが多いと言えます。
また、投資家は、才能ある創業者とチームかどうか、をしっかりと見ています。明確なビジネスビジョン、強力な技術的およびマーケティングの知識、および管理経験を持つ人材の有無などです。ウクライナの場合、かつて仕事を共にしたエンジニア同士など、個人的な繋がりや意見も重視する傾向もあります。
そして、スタートアップチームが計画と予測の方法を知っているか、さまざまなシナリオや市場状況の変化に対応する準備ができているかどうかに注目する投資家も多いです。販売とユーザーのレビュー、スタートアップにはすでに顧客がいて、最初の売上があり、市場からのフィードバックがあることが望ましく、これらの指標により、テスト、テコ入れ、評価できると考えている投資家も多いです。
投資家にとって、投資は種まき。まかなければ芽は出ませんし成長もしません。ウクライナのスタートアップに「シード(初期段階)」から投資するのが理想ですが「アーリー」でも遅くはありません。そこから「ミドル」「レイター」の段階を楽しみます。
米国に拠点を置くギーク・ベンチャーズは「ウクライナのスタートアップに投資することを恐れない」と語っています。同VCは2021年10月以降、35のスタートアップに投資しており、目標は60社です。ロシアによるウクライナへの侵略戦争が続いている中でも、資金調達を行い、ファンド運営を進めています。ウクライナスタートアップへの投資を見送るどころか積極的に情報収集し、スタートアップの経営陣と打ち合わせを繰り返すVCが増えてきています。
ウクライナスタートアップへの投資は、VCによって、色々な考え方があります。例えば、
・世界市場、特にアメリカに焦点を当てたスタートアップに投資するVC
・ヨーロッパのみに焦点を当てたプロジェクトに投資するVC
・米国市場の顧客獲得に成功しており、日本市場への進出を考えているスタートアップに投資
・AIを導入しているスタートアップに投資
・米国に拠点を置くか、米国に移住する意欲と能力を持っているスタートアップに投資
・初期のシード段階のみ、年間売り上げが150万USD以下のスタートアップに投資
・中堅~大企業向けのサブスクリプション・ベースのB2B SaaSスタートアップに投資
など、VCやファンドごとに投資する基準は異なります。
スタートアップは、少なくとも10億ドル企業に成長する可能性を持っているべきです。技術力がなかったり、小さなニッチや分野で活動するプロジェクトには投資が集まりにくいです。市場規模は少なくとも年間100億ドル以上が望まれます。また、数年で撤退を目指すような企業にも投資は集まりません。個人投資家達は、10~15年間市場に馴染み、ユニコーンを築き、株式公開する覚悟があるスタートアップを好む傾向があります。そして最近のスタートアップで重要なのは、大きな技術的要素があることです。
・ウクライナは2年で600%の利益(配当)を生む
・世界では20〜40%が標準。それ以上稼ぐ人は少数。ウクライナにはベンチャーキャピタルの資金がほとんどないため、市場で最高のプロジェクトを選ぶことができる。ウクライナ市場では200〜300%が標準
・米国は、失敗した投資の割合がウクライナよりも高く、より多くのプロジェクトが終了し、収益性は低い。ウクライナのビジネスは廃業する可能性がとても低い
・ウクライナでは、エグジット(通常、戦略的投資家に会社を売却するかIPO)することが、西側と比較しはるかに難しかった。ここ最近はポツポツ出てきている。その名残で、多くの投資家は配当を受け取ることで流動性を求めている。このため、投資家はすぐ黒字化を達成する企業を好む傾向がある。
・西洋のベンチャーコミュニティでは、その逆が当てはまる。投資家は短期的にはスタートアップの利益にはあまり敏感ではない。しかし長期的にはどんな犠牲を払ってでも成長する可能性にかけている。
ウクライナでスタートアップを起業する人達は、概ね米国市場への進出や移住を好みます。これはなぜでしょうか?そして重要でしょうか?
一般的に投資家やVCは、米国市場がビジネスの観点から最も健全であると考えている傾向があります。米国市場は巨大で、規制が厳しくなく、主要言語が1つで、3億人を超える顧客は新しい技術製品を試す準備ができています。したがって、他国と比較した際、スタートアップを成長させて利益を上げるのは簡単です。指標にもなりやすく、米国で成功すれば、欧州や日本やアジアで成功しやすくなる傾向もあります。投資家視点から見れば、スタートアップが高い評価を得やすい市場と言えるでしょう。多くの投資家は米国に知識があり、英語が読め、ある一定の勘も働きます。また、アメリカ市場は、上場先も豊富で、大手テック企業も豊富であるため、成長し甲斐があるのも事実です。当初からGoogleに買収してもらう目的で計画を立てて成功しているスタートアップもあります。ただ一点、米国市場は他国に比べて物価が高く、諸経費はかさみます。
投資家によっては、スタートアップが米国で登記するまでは投資せず、最低限デラウェア州での法人登記を済ませることを条件として投資するケースもあります。しかし、VCが取り決めている条件も、ケースバイケースで緩むこともあり、条件を満たしていなくても、あまりに魅力的なスタートアップの場合、投資に至っているケースも見受けられます。
ウクライナスタートアップへの投資額は、エンジェル投資家やVC、また組まれたファンドの目的によって変わってきますので、例えばとして挙げていきます。
あるVCは、最初のシード段階で5万ドルから20万ドルを投資します。その後の成長段階を観察する中でさらに追加するケースもあります。VCは独自のポートフォリオとルールを持っており、シードの直後に数百万ドルを投資するケースもあります。言い換えるとケースバイケースで、開発段階に見合った評価額を算出し投資しています。まだ収益を上げていないスタートアップの評価額は、通常200万~500万ドルで、この場合、10万ドルの投資に対して2~3%を取ることができます。一方、すでに収益があり、700万~1,000万ドルと見積もられる企業では同額を投資しても%は下がります。
VCにもよりますが、小規模のVCでも1日10~15件の申し込み(スタートアップからの資金調達願い)が届きます。応募数によって、選考の条件は変わりませんので、投資率は変わらないことが多いです。例えば、2023年初頭に月に1つか2つのプロジェクトに投資していたVCであれば、2024年も同じようなペースで投資するケースが多いです。スタートアップの10社に1社だけがVCと話す機会を持ち、200社に1社だけがお金を受け取ることができるようなイメージです。
また、AIのスタートアップに対しては、よりスピーディーに、より多くの金額を投資する条件を持つVCもあります。例えば、Spice AI、GoCharli、Insense、Firmustage、Sportsvisio、Noty、Competeraのようなスタートアップに対してです。VCによっては、スタートアップを3つのカテゴリーに分類し、1つ目はAIを販売するもの、2つ目は社内でAIを使用して生産性を向上させるもの、3つ目は人工知能の助けを借りて仕事を改善する方法を研究しているもの、と分けて投資額に反映させています。ウクライナはAIでよく利用されるPython(パイソン)というプログラミング言語を習得したITエンジニアが多いこともあり、AIファーストのスタートアップが多いことは興味深い傾向と言えます。2024年以降、AIを一切使用せずにイノベーションを構築することはほとんど不可能と言っても過言ではありません。
ウクライナのスタートアップPeople.aiも、AIを導入したスタートアップですが、ロシアによるウクライナへの侵攻で大幅に価値が下がると予想しましたが、それを覆し、戦争や市場全体の落ち込みに耐え、大きく成長できました。例えば、NewHomesMateは、市場のあらゆる困難にもかかわらず、また、彼らのチームはウクライナで砲撃を受けていたにもかかわらず、素晴らしい結果を示しました。
もちろん、もしも2022~2023年にかけて、戦争や危機、経済問題のない平穏な年であったなら、各スタートアップ達はさらに良い結果を出していたと予想できます。より多くの資金を調達し、より多くのラウンドを行っていたでしょう。そして、経済全体が危機を脱したとき、危機をうまく乗り切ったスタートアップ達は、堅牢なチームに変貌しているはずです。また、投資家も同様、多種多様の危機が続き、バリュエーションが低く、他のファンドが投資を恐れているときに勇気を出して投資した人は、一皮むけたのではないでしょうか。バフェットが言ったように「他のファンドが投資を恐れている時に投資せよ」は誰にでもできる芸当ではありません。
近年よくウクライナスタートアップに投資しているベンチャーキャピタル(VC)、ファンド、個人投資家(エンジェル投資家)、よくウクライナスタートアップを調査しているベンチャーキャピタル(VC)を挙げます。
・ICU
・Warner Music Group (VCではないがDressXに投資)
・Murat Abdrakhmanov(エンジェル投資家) ポートフォリオ
・Adrian J. Slywotzky(エンジェル投資家)
・Dmitry Sergeev(個人投資家)
・Peter Chernyshov(個人投資家)
・BoltのMarkus Villig(ユニコーンの個人投資家)
・SendBirdのJohn S. Kim (ユニコーンの個人投資家)
・EBRD(欧州復興開発銀行)
・Michael Seibel(個人投資家)
・Jared Friedman (個人投資家)
・Genesis(Better meなどウクライナITスタートアップを支える世界最大手のアプリ開発会社の1つ)
ウクライナスタートアップに投資するベンチャーキャピタル、ファンド、個人投資家を随時追加、アップデートしていきます。
多くのスタートアップチームがウクライナに拠点を置いているのはなぜか?
最も大きな理由は、ウクライナ在住のITエンジニアに頑張ってもらうためです。ウクライナのITエンジニアは米国と比べてもスキルが高く、AIのプログラミング(Python)を扱える割合も多く、それでいて米国の半分の金額で雇用ができます。創業者自身はウクライナの出身ではないですが、開発チームをウクライナに持つスタートアップも多くありますし、ウクライナに拠点は置かずとも、ウクライナのエンジニアを他国で雇用しているケースも多く見受けられます。
ウクライナでは2024年現在でも戦争が続いており、爆撃や停電に伴うリスクがあることは十分承知している中、投資を諦めるファンドもいれば、それでも投資を続けるファンドもあります。ウクライナにいて急成長しているスタートアップは、懸命に働き、戦時下でも集中するユニークな能力を持っています。彼らの多くは、仕事に打ち込むことは戦争から気持ちを切り替えられる唯一の機会なのです。私達は、ウクライナスタートアップの業績が非常に良いことを目の当たりにしています。
投資家達もスタートアップ達も、『ウクライナは開発、市場(顧客)は米国』という割り切った考えを持っています。ウクライナ市場で顧客を増やそうとはしません。したがって、戦争の影響は最低限しか出ていない状況です。
ウクライナが戦争に勝利するため!ウクライナを支援するため!投資を進めたい!とカッコいいことを言いたいところですが、実際には、投資家もスタートアップも、そしてそのサービスを利用するユーザーにとってもWinWinWinの状況を作り出せていることこそが、ウクライナスタートアップ投資が急拡大・急成長している根底の理由だと思っています。ウクライナスタートアップに投資したい方はご相談ください。
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