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ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は『現在ウクライナを支援している企業が戦後復興に優先的に取り組むのは当然のことだと考えている』と発表しています。また、ゼレンスキー大統領は、『ウクライナの復興プロジェクトにおいて、このような企業に多くの機会を与えるための法的枠組みを準備してほしい』とヴェルホフナ・ラダ(ウクライナ最高議会)に要請しています。
ゼレンスキー大統領は『ウクライナの復興はヨーロッパ最大の経済プロジェクトになる』とも考えており、2022年2月24日以降にロシアの侵略者によって占領され破壊しつくされた領土を廃墟から蘇らせるだけでなく、現時点で近代化や高いセキュリティ要件を満たしていないインフラ、エネルギー、社会施設をゼロから再建することが必要だ、という見解をもっています。
2022年2月24日にロシアによるウクライナ全面侵攻が始まってから、ウクライナは数多くの困難に直面しました。
世界銀行や国連などによる2023年3月時点での試算では、ウクライナの復興費用は4110億ドル(約62兆円、1ドル=150円)かかると推定されており、戦争が2023年11月時点でも続く現状では、この費用がさらに増えるのは確実です。
2023年6月にロンドンで開催されたウクライナ復興会議では、参加国から表明されたウクライナ支援の総額は600億ドル(約9兆円)に上りましたが、さらに巨額の費用を賄うだけには各国の支援からでは不十分であり、民間企業の復興への関与を進めることが重要とされています。
すでに復興をテーマにしたフォーラムは多数開催されており、日本も官民合わせて積極的にそれらに参加しています。
本記事では、ウクライナのスペシャリストであるJoinJapanが、ウクライナの戦後復興に関するこれまでの流れと、復興にて特に求められる分野について詳細に解説していきます。
注)本記事の情報は2023年12月30日時点でのものです。
2022年7月4日〜5日に、スイス・ルガーノにてウクライナ復興会議(URC2022、Ukraine Recovery Conference)が開催され、国家元首を含む世界各国の要人が参加しました。この会議において、ウクライナ内閣は戦後復興に7500億ドル(約113兆円)かかるとの試算を発表しました。
翌年の2023年6月21日〜22日に、イギリス・ロンドンにてウクライナ復興会議(URC2022、Ukraine Recovery Conference)が開催され、60カ国超の国、機関、企業、市民団体などが参加し、日本からも当時の林外務大臣が参加しました。
ウクライナ復興会議は2024年にもドイツで開催されることが決まっています。
ポーランド・ワルシャワでは2023年に入り、ウクライナ復興をテーマにした国際展示会&会議「リビルド・ウクライナ(Rebuild Ukraine)」が2回開催されています。
2回目の展示会は11月14日〜15日に開催され、30カ国以上から540社以上が参加しました(参加企業一覧)。参加企業の業種としては建設、エネルギー、電力、ロジスティクス関連が多くみられました。自治体ゾーンでは戦争の被害を受けたウクライナの26の自治体が参加し、JETROによるレポートによると、地域の被害状況によって支援ニーズは異なるものの、がれきや地雷除去に加え、子供の教育への支援ニーズが総じて高かったとのこと。欧州の国の企業が出展企業の多くを占め、アジアからは韓国、ベトナムから数社のみの参加でした。
日本もウクライナの復興への関与を目指し、官民がすでに動いています。
日本の政府関係者によるウクライナ経済復興推進準備会議がすでに以下の3回開催されています:
第1回:2023年5月15日(結果概要)
第2回:2023年6月19日(結果概要)
第3回:2023年10月5日(結果概要)
これら会議の中では戦時下のウクライナとの連携は日本の民間企業にとって大きな困難を伴うものであるとの指摘がされており、日本企業とウクライナ側との案件形成のために、官側の支援策を拡充したい旨の報告がされています。ウクライナの復興に日本の企業が関与する際に、日本政府側からの具体的な支援の方策はまだ明らかにされていませんが、何らかの支援を将来的に受けられる可能性はあるものとみられます。
また、ウクライナと日本の企業とのマッチングを推進したい旨の報告もされています。
首脳レベルでの交流は2023年3月に岸田首相がキーウを訪問した他、5月のG7広島サミットの際に、ゼレンスキー大統領が来日しています。
6月21日〜22日には、ロンドンでのウクライナ復興会議(URC2022)にあわせ、外務省、経産省、JETROの共催のもと、日ウクライナ官民ラウンドテーブルが開催され、二国間の協力のあり方について意見交換がされました。その中で、ウクライナ側はインフラ、電力、鉱物資源開発などの分野への投資を呼びかけたほか、エネルギー、農業・食料、投資・金融、ITテクノロジー分野で日本との連携を期待する旨が述べられました。JETROによると、日本企業46社、ウクライナ企業26社を含む企業・政府関係者約120人が参加したとのこと。
9月9日にはキーウを林外務大臣(当時)が日本の企業団を従えて訪問し、ゼレンスキー大統領とシュミハリ首相、スヴィリデンコ経済相などと会談を行っています。この際には、ウクライナ日本ビジネスフォーラムも開催され、楽天の三木谷社長ほか、丸紅、川崎重工業、医療ICTベンチャーのアルム、アンモニア関係のスタートアップのつばめBHBなどの関係者が参加しました。
それに続く形で、11月20日には辻外務副大臣、岩田経済産業副大臣が日本の企業団を従えてキーウを訪問し、シュミハリ首相、スヴィリデンコ経済相、クブラコフ地方自治体・国土・インフラ発展相と会談を行っています。この際には、日本からは伊藤忠商事、双日、クボタ、JFEエンジニアリング、IHI、日本公営、アライドカーボンソリューションズ、駒井ハルテック、Spiber、グローバルセキュリティエキスパートの計10社が参加したほか、ウクライナの企業の関係者が100名以上参加しました。
上記2回のビジネスフォーラムでは、建築、エネルギー、農業、製鉄、メディカル、ITなどの分野でビジネスマッチングの可能性が示されました。
また、2024年2月19日には東京で「日・ウクライナ復興経済推進会議」が行われることが決まっており、それに合わせた準備が加速しています。
その他の動きとしては、以下が挙げられます:
・外務省内に「ウクライナ経済復興推進室」を設置
・経団連の日本NIS経済委員会の内部にて、「ウクライナ経済復興特別部会」を設置。
復興においては、日本企業はウクライナとの関係性だけではなく、第三国との協力も重要です。その旨において、ポーランドとトルコの動向が注目されます。
UNHCRによるまとめによると、2023年2月15日現在で、ポーランドは約156万人のウクライナ避難民を受け入れています。また外国政府要人がウクライナを訪問する際に、首都ワルシャワを経由しウクライナに入国することもあり、ウクライナ復興においても大きな存在感を発揮するのは確実です。
ウクライナ復興をテーマにした「リビルド・ウクライナ(Rebuild Ukraine)」も、2回ともがワルシャワでの開催でした。
また、9月にキーウを林外務大臣が訪問した際には、ポーランドのラウ外相とも会談しており、ウクライナの中長期的な復興には官民が一体となった支援が不可欠だという認識で一致し、緊密に連携していくことを確認しています。
11月21日には、前日にキーウを訪問した日本の政府・企業使節団が、ワルシャワにてポーランド企業とのビジネスマッチングにも参加しています。
日本の企業関係者は外務省による渡航制限の影響で、ウクライナへの入国が難しい状況にありますが、ポーランドは自国民に対し、ウクライナへの渡航を特に制限はしていません。そのことは、ウクライナの復興事業において、ポーランド企業と提携する一つのメリットになるかもしれません。
トルコは、戦争勃発以前より、ウクライナの道路建設をはじめとしたインフラ建設において存在感を発揮していました。戦争勃発後は、無人戦闘航空機「バイラクタル」をウクライナに輸出するなど、軍需産業でもウクライナとの関係性があります。
2023年9月21日にはイスタンブールにて「トルコ・ウクライナ・日本ビジネスフォーラム」が初開催され、戦後復興の分野で3カ国の民間企業が連携していく可能性が示されました。このフォーラムは、ヤンマーのトルコ法人が主催し、日本の商社を含む数十社が参加しました。
ロシアによるウクライナ侵攻に対し、ウクライナを強力に支援しているのは主に欧米各国ですが、アジアからは日本と韓国がウクライナを明確に支援しています。
戦後復興には、すでに韓国も官民あげて関与を強めており、復興需要に関心のある日本の企業にとって韓国の動向を把握するのは重要です。
韓国は2023年に入ってからウクライナとの関係を深めており、5月の広島サミットでは韓国の尹大統領とゼレンスキー大統領が初会談を行ったほか、7月には尹大統領がポーランド経由でウクライナを初訪問しています。
9月13日〜14日には元喜龍(ウォン・ヒリョン)国土部長官が率いる政府・企業訪問団がキーウを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談したほか、ウクライナ政府と「韓国・ウクライナ再建協力フォーラム」を開いています。韓国メディアによる報道によると、この訪問団は国土交通部と海洋水産部をはじめ、韓国土地住宅公社、韓国水資源公社、韓国鉄道公社、韓国空港公社、韓国海外インフラ都市開発支援公社などの公営企業、民間からはサムスン物産、現代建設、HD現代建設機械、鉄道車両製造の現代ロテム、IT企業のネイバー、建設コンサルティングのユシン、エネルギー関連企業のハンファソリューションズ、ハンファ建設、通信大手のKT、CJ大韓通運、総合商社のポスコインターナショナル、海外建設協会の計30人で構成されたとのこと。
ウクライナ政府のプレスリリースによると、このフォーラムの中では、ウクライナと韓国が、
・キーウ州の交通システムの近代化とマスタープランの策定
・ブチャ市の下水処理プロジェクト
・高速鉄道網(特にインターシティ)の拡大と発展
・HD現代建設機械によるミコライウ州への建設機械の提供
・港湾、空港、廃棄物管理の開発分野における協力の可能性
などについて話し合ったとのこと。
尹大統領はインドでのG20サミットで23億ドル(約3450億円)のウクライナ支援計画を発表しており、これらは主に対外経済協力基金(EDCF、韓国の有償資金協力基金)を通じて、ウクライナに融資される模様です。
つまりウクライナ側はEDCFを通じて、長期低利融資を受けることができ、その資金を使いウクライナの復興を進めることができます。韓国はその復興の事業者が自国企業となることで民間の仕事を増やすことができ、両国にとってウィンウィン(Win-Win)の関係を築ける可能性があります。
特に建設分野などの復興事業において問題になるのは、その建設のクオリティーをどのように確保するかです。ウクライナではこれまで自国の建設プロジェクトにおいて、自国業者に任せた結果、汚職などの影響もありクオリティーの低い建設物ができあがり問題になることが多々ありました。その点において、韓国の建設会社がウクライナでの復興建設を行なってくれるのはウクライナ側としては歓迎すべきことでしょう。
韓国側の復興への関与は日本と比べるとスピーディーで具体的な開発案件の名前がすでに上がって来ています。日本側も遅れを取らないよう、ウクライナ側にどの分野でどのようなプロジェクトなら一緒にできるかを具体的かつ明瞭に伝える必要があるでしょう。
広大な平原と「黒土」と呼ばれる世界有数の豊かな土壌をもつウクライナは世界有数の穀倉地帯として世界的にも有名であり、戦争前には農業セクターはGDPの10%以上を稼ぎだす主要産業でした。
戦争勃発により、多くの土地が砲撃や地雷敷設、またヘルソン州のカホフカダムの崩壊などによる灌漑施設の破壊を受け、多大な影響を受けました。
また、マリウポリやベルジャンシクなどのアゾフ海側の港湾都市がロシアに占拠され、黒海に面したオデーサなどの港湾都市からの輸出ルートが使えない現状、農作物の輸出は鉄道およびトラックによるものに切り替わっています。特に2023年夏頃より、これら代替穀物輸出回廊(ルート)での輸出が急増しており、戦時下での情勢にウクライナは適応しつつあります。
その中で、農業での戦後復興において最初に挙げられるニーズは地雷除去です。ロシアの軍事侵攻でウクライナの国土の3分の1近くに地雷や不発弾が残されており、復興の障壁になっています。また、地雷除去の作業は戦時下の現在において、すでに始まっており、今すぐにでも始められる復興分野でもあることも特徴です。
日本企業のコマツと日建がJICAを通じて対人地雷除去機を送っており、この分野での日本企業の協力の可能性は今後もあることでしょう。
ウクライナ側からのニーズとしては、日本の農業機械メーカーとのコネクションの構築のほか、日本の技術や資金援助が挙げられます。
ウクライナではIT産業が毎年20%ほどの成長を続けており、2022年には同国のGDPの約8%を占めるまで成長しました。2030年にはGDPの15%を占めるまで成長すると予測されています。
ロシアによるウクライナ侵攻以前より、ウクライナのIT企業は欧米企業からの案件開発を中心に取り組んでいましたが、ロシアなどのCIS圏の企業との案件もありました。侵攻後はそれらの市場を喪失したことにより、新たな市場開拓として同じ西側諸国に位置し、高度IT人材の不足に悩まされる日本への関心が高まっています。
2023年10月に日本の幕張メッセで開催されたCEATEC 2023(シーテック2023)には、日本の総務省による招聘を受け、ウクライナのIT企業10社によるウクライナ・パビリオンが設けられ、ウクライナと日本のIT分野での交流が活発化しています。
また、国際アウトソーシング協会(IAOP)が発表する2023年グローバルアウトソーシング100によると、ウクライナ関係の会社が17社もランクインしており、ウクライナのITレベルの高さが証明されています。
ITセクターは他のセクターと比べ戦争の影響が比較的少なく、また戦時下であっても成長を続けているのが特徴です。
アンモニア関係の企業である「つばめBHB」が、ウクライナ・ブチャ市で進むGreen Industrial Zoneプロジェクトへ参画(2023年5月23日)
楽天グループで通信プラットフォーム事業を展開する楽天シンフォニーがウクライナの大手通信事業者であるKyivstar(キーウスター)の親会社VEON(ビオン)と、同国のインフラ再構築を加速することを目的として、Open RANとデジタルサービス分野における協業に関する基本合意書を締結(2023年8月2日)
JICA:2023年11月1日にJICAがキーウオフィスを再開
JETRO:2023年11月20日の日本使節団とスヴィリデンコ経済省との会談の中で、日本側がキーウにJETROオフィスを開設する可能性に言及
UkraineInvest: 海外からのウクライナへの投資を支援するために設立されたウクライナの政府関係機関
Ukraine Invest GUIDE:ウクライナ政府機関が作成した投資ガイド
ウクライナフィンテックカタログ2023:ウクライナのフィンテック企業126社の紹介カタログ
2023年11月4日付の日経新聞による報道によると、日本政府は農業や医療、再生可能エネルギー分野の企業のウクライナ進出に補助を出す意向を表明し、1社あたり事業費が10億円以内なら全額の補助を検討するとのこと。
2023年11月3日のウクライナ政府プレスリリースによると、ヴィリーニ州、ドネツィク州、ルハンシク州、リヴィウ州にある20の炭鉱都市で政府要件を満たした上で新たに設立される会社については、生産設備の輸入の際に付加価値税の支払いが免除されるとのこと。これにより投資家を呼び込み、赤字鉱山や閉山しつつある鉱山を抱える炭鉱都市に新たな雇用創出に繋げたい考え。
日本企業がウクライナでの復興事業に参加する際、大切なのはウクライナでのビジネス経験があるかどうかです。日本人とウクライナ人の間には言語の壁だけでなく、文化(カルチャー)の壁があります。日本側が意図したことがウクライナ側に正確に伝わらないこと(その逆もしかり)が起こり得ます。これを防ぐには、ウクライナでのビジネス経験が豊富にあり、ウクライナに長年在住する日本人メンバーも含むJoinJapanに、まずはお気軽にお問い合わせください。
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