Fire Point社とは?ウクライナが生んだ長距離ドローン&巡航ミサイル企業の全貌【JoinJapan ウクライナ企業紹介】

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長距離ドローンと巡航ミサイルで戦況を変えるスタートアップ(ウクライナ企業紹介)

米国トランプ政権でCIA長官と国務長官を務めたマイク・ポンペオ氏とFire Point社。

― Fire Point(ファイアポイント)社とは?

ロシアによる全面侵攻以降、ウクライナでは「国産テックで自国を守る」という流れが一気に加速しました。その象徴的存在の一つが、首都キーウに本社を置く防衛テクノロジー企業 Fire Point LLC(以下 Fire Point) です。

同社は、長距離攻撃用ドローン FP-1 シリーズ や、巡航ミサイル「FP-5 Flamingo(フラミンゴ)」 の開発・量産で世界的な注目を集めています。

1. 会社概要

 ● 社名:Fire Point LLC(ファイアポイント)

 ● 本社所在地:ウクライナのキーウ市

 ● 法的登録:2021年2月に有限責任会社として登録

 ● 本格始動:2022年、ロシアの全面侵攻を受けて長距離無人システム開発企業として実質スタート

 ● 事業内容:長距離、高精度攻撃用ドローン(UAV)の開発や製造、巡航ミサイルおよび弾道ミサイルシステムの開発や製造、その他関連する電子機器や航法システム、地上管制装置の開発、航空機および宇宙機器と付属装置の製造

2. 主力製品ラインアップ

 2-1. 深部攻撃ドローン FP-1 シリーズ

Fire Point を代表するのが、攻撃型(いわゆるカミカゼ型)の長距離ドローン FP-1 です。

 ● 射程:最大約 1,400〜1,600 km 程度の長距離飛行が可能

 ● 弾頭重量:おおよそ 50〜120 kg クラスの高性能炸薬を搭載

 ● 特徴

 ・コスト効率を最重視した設計(1機あたり約 4.7〜5.5 万ユーロ)

 ・レーダー反射を抑えた素材、形状、GPSジャミングに耐える独自の航法システム

 ・20分程度で組み立て、発射準備ができるモジュラー構造

 ・ウクライナの長距離攻撃のうち、約60~70%が同社FP-1系によるもの と報じられており、ロシア本土の製油所、弾薬庫、指揮所などへの精密攻撃に大きな役割を果たしています。

 ・また、FP-1 の短〜中距離版として FP-2 も派生開発されており、より大きな弾頭を搭載しつつ、200km前後の戦術射程で運用されています。

 2-2. 巡航ミサイル FP-5 Flamingo

2025年に発表された FP-5「Flamingo(フラミンゴ)」 は、Fire Point が開発した地上発射型の巡航ミサイルです。

 ● 最大射程:およそ 3,000 km

 ● 弾頭:約 1,150 kg 級

 ● 推進:離陸時は固体ロケットブースター、その後ターボファンエンジンで巡航する二段構成

 ● 誘導方式:GPS、GNSS と慣性航法(INS)を組み合わせ、電子妨害下でも目標に到達できるとされる

2025年夏、クリミアのロシア連邦保安庁(FSB)関連施設への攻撃に Flamingo が使用されたと、ウクライナ側情報源が報じています。

また、チェコのクラウドファンディング「Gift for Putin」が約52万ドルを集めて Flamingo 1基を購入し、ウクライナ軍に寄贈するプロジェクトを成功させたことでも国際的な注目を集めました。

 2-3. 新世代の弾道ミサイル FP-7 / FP-9

Fire Point は 2025年9月、ポーランドの防衛展示会 MSPO で、短距離〜準中距離弾道ミサイル FP-7 / FP-9 を公開しました。

 ● FP-7:射程 約 200 km、150 kg 級弾頭、終末段階での高速度が防空システムにとって大きな脅威

 ● FP-9:射程 約 855 km、800 kg 級弾頭、約 70 km の高高度から高速で降下

これらは Flamingo で培った技術を応用した「国産弾道ミサイル」として位置づけられており、Fire Point が単なるドローンメーカーから、総合ミサイル企業 へと進化していることを示しています。

3. 会社規模と生産体制

 3-1. 従業員数と組織

公開情報は時期により差がありますが、以下のような規模感が報じられています。

 ● 2024年時点:500名超とする報道

 ● 2025年秋:約 2,500名の従業員を抱える規模に拡大 とフランス紙『ル・モンド』が報道

本社のほか、キーウおよび周辺地域に複数の分散・秘匿工場を持ち、ロシア軍からの攻撃リスクを下げる生産体制をとっています。

 3-2. 生産能力

 ● FP-1 ドローン:

 ・2023年初期:月産30機程度 からスタート

 ・2025年には 1日100機程度(=月数千機)のペース にまで増産

 ● FP-5 Flamingo

2025年中頃:月産30基から、210基/月を目標に量産計画

ウクライナ国内の報道では、Fire Point が「ウクライナのドローン予算のかなりの割合を受注している」と指摘されており、国防調達の中核企業のひとつになっていることが分かります。

 3-3. 売上規模・政府契約

キーウインディペンデント紙によると、Fire Point は 2025年だけで10億ドル超の政府契約を受注する見込み とされ、さらにドイツ政府と総額50億ユーロ規模の支援パッケージの一部も受け取っています。

AP通信などは、ウクライナ政府が国産防衛産業向けに年間約100億ドル規模の調達を行っており、その中で Fire Point は中心的なプレイヤーの一社だと位置づけています。

4. 国際連携とグローバル展開

 4-1. デンマークでのロケット燃料工場

Fire Point は 2025年、デンマークに長距離ミサイル用燃料工場を建設する計画 を発表しました。デンマークのスキュデストルプ空軍基地近郊に拠点を置き、欧州からの資金支援(いわゆる「デンマークモデル」)を受けて建設が進められています。

これは Fire Point にとって初の本格的な海外生産拠点であり、ウクライナ防衛産業の 欧州統合・国際サプライチェーン化 の象徴的プロジェクトといえます。

 4-2. 国際アドバイザリーボードとガバナンス強化

2025年11月、同社は企業統治の強化を目的にアドバイザリーボード(諮問委員会)を設置し、マイク・ポンペオ前米国務長官 をメンバーとして迎え入れたと発表しました。国際的な知名度が高い人物を招くことで、

 ● 西側諸国との信頼構築

 ● 共同開発や技術提携の拡大

を狙っているとみられます。

 4-3. チェコ・デンマークなど欧州との連携

チェコでは、市民団体「Gift for Putin」が Flamingo 購入のクラウドファンディングを成功させ、ウクライナ軍に寄贈する計画が報じられました。

デンマーク政府は、ウクライナ支援の一環として Fire Point を含むウクライナ企業のデンマーク国内投資に 5億クローネを拠出 すると発表しています。

こうした動きは、Fire Point が単にウクライナ国内企業にとどまらず、欧州防衛エコシステムの一部 として位置づけられつつあることを示しています。

5. 汚職疑惑と透明性への取り組み

急成長企業であるがゆえに、Fire Point は汚職疑惑という課題も抱えています。2025年8月、ウクライナ国家汚職防止局(NABU)が、同社による部品価格の水増しや納入機数の不一致の可能性について調査を開始したと報じられました。大統領ゼレンスキー氏の旧テレビ制作会社の共同オーナーであるティムル・ミンディチ氏が、Fire Point の実質的な受益者ではないかとの報道もあり、政治的な注目を集めています。

しかし、Fire Point 側は疑惑を否定し、NABU も「Flamingo ミサイル自体が調査対象ではない」とコメントするなど、情報は錯綜しています。また、この手の情報は、ロシアや親ロシアのメディア、プロパガンダ、情報戦に利用されるため、捏造されているケースも極めて多く、同社を貶めるためだけの信頼性に欠けるニュースも拡散されています。

同社がアドバイザリーボード設置や国際監査の受け入れを打ち出しているのは、こうした疑惑に対して 企業統治を国際基準に近づける姿勢 を示す狙いがあると考えられます。

6. ウクライナ経済・日本企業にとっての意味

Fire Point の存在は、ウクライナが「防衛版シリコンバレー」 とも呼ばれるほど、スタートアップ主導で防衛テクノロジーを開発していること、その成果が長距離ドローンやミサイルという形で実戦投入されていることを端的に示しています。別記事になりますが、ウクライナドローン開発ウクライナドローン軍についてもご覧ください。

また、防衛先進国やその国々の兵器メーカーは、ウクライナの防衛テクノロジーを学ぶためにウクライナを訪問しています。

日本企業にとっては、兵器そのものではなく、

 ● 複合材料、軽量構造設計

 ● 自律航法、GNSS耐妨害技術

 ● 分散型生産、モジュラー設計

 ● 戦時下でのサプライチェーン構築ノウハウ

といった、デュアルユース(民生転用可能)技術や生産手法 に大きな学びがあります。

私たちJoinJapanとしては、日本の災害や、日本の防衛に少しでもウクライナの経験が活かせると嬉しく思います。アフターウォーの世界でお会いしましょう。