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ウクライナのITサービスの輸出は2010年には約4億ドルでしたが、2023年には67億ドルと、約17倍の成長を記録しています。また、ITサービスの輸出は、同国の2023年のサービス輸出の約41%を占め、輸出全体(財・サービス)の13.2%を占めるまでに成長しました。本記事では、ウクライナのITサービスの輸出量の推移について、ウクライナ中央銀行のデータをもとに、分析していきます。
ウクライナにおけるITサービスの輸出高は、2010年から2022年まで13年連続で増加し、年あたりの平均成長率は約28%でした。2022年の戦時下においても、年5.8%の成長を記録し、過去最高の73億4900万ドルを輸出しました。2023年は前年比8.5%の減少を記録したもの、輸出高は2021年とほぼ同じであり、ウクライナの他の産業セクターと比較しても、戦争の影響に耐久性があることが見て取れます。
次に、2010年から2023年の期間のウクライナの輸出高(財・サービス)の推移を見てみます。輸出高は、2012年に865億1600万ドルを記録したものの2016年には460億800万ドルまで減少。その後再び上昇に転じ、2021年には815億400万ドルまで回復。しかし、戦争の影響で2023年には508億6400万ドルまで再び減少しています。
この14年の期間にて、ウクライナのITサービス輸出高は約17倍の成長を記録(2010年は約4億ドル、2023年は約67億ドル)。これに応じて、輸出全体(財・サービス)に占めるITサービス輸出高も、2010年の0.6%から、2023年には13.2%を占めるまでに成長しました。
戦争の影響によりウクライナの主要産業である鉄鋼業や農業が打撃を受ける中、リモートワークやリロケーション(オフィスの移転や人材の異動・移動)に対応しやすいITセクターの重要性は以前にも増しています。
2023年のウクライナのITサービスの輸出先の国別データを見ると、アメリカが26億7700万ドルで、全体の36.4%を占めています。次にマルタの5億6700万ドル(7.7%)、イギリスの5億3500万ドル(7.3%)が続き、上位3カ国で51.4%と過半数を占めています。その次にキプロス、イスラエル、ドイツ、スイスが続きます。
これらの通り、ITサービスの輸出先は、欧米諸国、イスラエルが中心であることがわかります。また、マルタやキプロスなどの小国がランクインするのは、これらの国に東欧系の経営者がオフショア法人を作るケースが多いためと思われます。
ウクライナのIT輸出は、欧米諸国からのソフトウェア開発等のアウトソーシングの受託がメインとなっています。ウクライナはソ連時代から理工系の教育に強く、優れたIT人材を養成する土台が整っていました。外国企業がそれに着目し、2000年代から欧米企業のソフトウェア開発のアウトソーシングの拠点として成長を続けてきました。また、欧米諸国と比べた際のウクライナの労働コストの安さもその要因の一つです。
EPAM、SoftServe、Luxoft、GlobalLogicなどの全世界で従業員数が数万人規模の大規模なソフトウェアエンジニアリング会社がウクライナに拠点を置いています。
ウクライナにR&Dを置く世界的企業やアウトソーシングビジネスの実情については、すでに我々JoinJapanがまとめております。どうぞ以下の記事にてご確認ください:
ウクライナ政府はIT産業を同国の基幹産業の一つとして位置付けており、2030年までに同国のGDPの15%を占めるまで成長させたい方針です。それを後押しする施策として、Ukrainian Tech Ecosystem Overviewがあります。こちらにはウクライナのITサービス企業とITプロダクト企業のデータをセクター別に一覧することができます。例えば、企業の公式サイト、分野、従業員数、オフィスの場所、ステータスを確認できます。ウクライナのIT企業を探す企業や投資家は、このサイトから必要なデータを取得できることでしょう。
ウクライナにはアウトソーシングの受託企業のほかに、自社でIT製品(プロダクト、ソフトウェア、アプリ)を開発し、国内および海外市場にて成功を収めている会社も多数あります。代表的なのが、Skypeでの外国語レッスンサービスを提供するPreply(プレプリー)や、Mac向けのクリーンアップソフトを開発するMacPaw(マックポー)、文法や文体の誤りをリアルタイムで修正提案してくれるサービスのGrammarly(グラマリー)、家庭用ワイヤレスセキュリティカメラおよびシステムを製造するAjax Systemsなどです。
これらの企業の輸出高は、ITサービス輸出高全体の中で占める割合はまだ小さいです※。しかし、今後ウクライナのIT技術者の賃金が向上し、ウクライナの低価格としてのオフショア開発先の魅力が低下していく可能性がある中、ITプロダクト企業の輸出をいかに増やしていくのかが重要です。
※これら企業は、ウクライナ国外に法人登記をしている場合が多数あります。その場合、これら企業のITサービスはウクライナからの輸出としてみなされない場合があります。
本記事ではウクライナのITサービスの輸出の現状について解説しました。欧米諸国が注目し、ここ10年ほどで大きく成長を遂げたウクライナのIT産業ですが、日本ではまだまだ知られていないのが実情です。ウクライナのITアウトソーシング企業は、ロシアなどの旧ソ連圏との関係が切れ、新たな輸出先を探す中、IT人材不足が続く日本市場に関心を示しています。JoinJapanではこれら日本市場に興味を持つウクライナIT企業のデータ、連絡先を持っておりますので、ぜひお気軽にメール等にてお問い合わせくださいませ。