ニュース・リサーチ
2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナへの全面侵攻は、ウクライナとその周辺諸国との関わりを一変させました。ウクライナの西に位置するポーランドは、ウクライナからの避難民を大量に受け入れ、ウクライナを強力に支援しています。これを受け、ポーランドがウクライナ支援のパブとなると共に、国外に避難したウクライナのビジネスマンがポーランドを拠点にビジネスを再開したり、または新規ビジネスに取り組むケースが大きく増えました。本記事では、ポーランドにおけるウクライナ系企業の動向を、統計データを元に紐解いていきます。
ポーランドの中央経済情報センターによると、ポーランドにて2023年に新規登録された企業の内、外資系企業は1万2865社でした。前年比では10.95%となり、過去最高を記録しました。登録された地域別のデータを見ると、そのうちの半分がワルシャワがあるマゾフシェ県でした。また、全外資系企業のうち、3832社がウクライナ系企業(約30%)であり、国別のトップを占めました。
また、2024年4月19日の時点で、ポーランドにて事業を行う企業の内、外国資本の企業および企業の受益者がポーランド以外の国民である企業は全部で10万6330社です。また、ウクライナ系企業は2024年4月5日時点で2万8801社登録されています。これらウクライナ系企業の2001年以降の開設数の推移は以下の通りです。
上記の通り、ポーランドにおけるウクライナ系企業経営者の存在感がここ10年で非常に高まっているのが見て取れます。
参考:
ポーランドにおける外資系企業登録数(2024年4月19日時点)
1位 | ウクライナ | 28,007社 |
2位 | ドイツ | 10,015社 |
3位 | ベラルーシ | 6,857社 |
4位 | オランダ | 4,214社 |
5位 | 中国 | 3,711社 |
5位 | イギリス | 3,711社 |
7位 | イタリア | 2,962社 |
8位 | ベトナム | 2,703社 |
9位 | 米国 | 2,679社 |
10位 | フランス | 2,564社 |
29位 | 韓国 | 711社 |
46位 | 日本 | 259社 |
戦争開始後から、ポーランドにて個人事業主登録をするウクライナ人が急増しました。個人事業主登録をするウクライナ人は2022年以前は年間で約2500件ほどでしたが、2022年からの2年間では4万8464人を数えました。2023年だけでみると、3万325人の増加であり、同年にポーランドで開設された個人事業主の10分の1をウクライナ人が占めました。
要因としてはポーランドに避難したウクライナ人が現地で事業を行うために個人事業主登録を進めたほか、ウクライナ人を採用するポーランド企業が採用の際にウクライナ人労働者に個人事業主登録を求めたことなどが挙げられます。
両国共に商工会(ウクライナ商工会議所とポーランド国立商工会議所)が存在するほか、ポーランド・ウクライナ商工会議所(PUIG)も存在します。PUIGは1992年設立で、両国間のビジネスに携わる企業500社が会員となっています。また政府間レベルでは、ウクライナ・ポーランド政府間経済委員会が存在し、両国の大臣クラスが共同委員長を務め、両国間の経済に関する諸問題に関する調整が行われています。
また、ポーランド貿易・投資庁(PAIH)が、ウクライナの復興に関心のある企業を集めたフォーラムを随時開催するほか、ウクライナの復興に関心を示す企業の登録簿を作成しており、すでに3000社を超えるポーランド企業が登録されているとのこと。ウクライナ側のカウンターパートには、UkraineInvestがあり、ここが海外からのウクライナへの融資を促進しています。在ポーランド・ウクライナビジネス協会も両国をテーマにしたカンファレンスを随時開催しています。
PrivatBank:ウクライナ最大手の銀行。Forbes.uaが2024年4月に伝えるところによると、同銀行のCEOがポーランド市場への参入の可能性について触れました。
Lviv Croissants:ウクライナに140店舗を構える大手クロワッサンチェーン店。2022年にポーランドに初の店舗をオープン。ポーランドでは2023年に11店舗まで拡大予定。
Nova Poshta:ウクライナ最大手の民間宅配業社。ポーランドにてすでに22店舗をオープン。その他、宅配ロッカーを多数ポーランドに配置済み。
Пʼяна Вишня (Piana Vyshnia):リヴィウ発の果実酒製造メーカー。2018年からポーランドでも販売を開始した他、バーも運営している。
Chernomorka:魚介系レストランチェーン。2022年にポーランドに初の店舗をオープンした。
Milk Bar:ウクライナのカフェチェーン。ポーランドでの店舗オープンを予定している。
Silpo:ウクライナの最大手スーパーマーケットチェーン。親会社であるFozzyグループが、ポーランドでの店舗開設を検討していると公表している。
Галя Балувана (Halia Baluvana):ヴァレヌィキやムルィンツィーなどを専門とするウクライナ料理店。ポーランドではWesoła Paniとの名前で店舗を展開中。
上記の通り、飲食・食品関係、物流関係のウクライナ企業のポーランド進出が目立ちます。またこの他にはウクライナの食品やパラレルブランドが、ポーランドの市場でもネット販売などを通じて進出しています。
また、ウクライナの大手テック系情報サイトDouが伝えるところによると、2022年の戦争開始以降にポーランドにオフィスを開設したウクライナ系のIT企業は21社を数えるとのこと。その中には、従業員数1000名を超えるPlariumおよびValtechのほか、評価額が12億ドルでユニコーン企業に数えられるノーコードプラットフォーム開発会社のCreatioが含まれます。
ポーランド市場でウクライナ系企業の存在感が増す中、両国間での摩擦も増えてきています。特に農業分野と流通分野が顕著です。
ロシアによる侵攻を受け、EUがウクライナ産農作物への関税を撤廃したことなどにより、ポーランドの農作物の競争力は大きな打撃を受けました。また、EUはEU圏内に越境するウクライナの運送業者への優遇措置も講じたため、ウクライナの運送業者の価格に太刀打ちできないポーランド側からの不満の声もあがりました。
これらは2023年秋頃から、一部のポーランドの農業関係者や運送業者による国境封鎖に繋がり、両国間の政治問題にまで発展しました。しかしながら、2024年3月ごろまでには、両国間の首脳の話合いおよびデモ隊への説得により事態は急速に沈静化。2024年7月初頭現在では、両国間の摩擦は依然として存在しますが、状況はコントローラブル(制御可能)と言えるでしょう。
ポーランドに進出するウクライナ人ビジネスマンは近年顕著に増加しています。ポーランドとウクライナの結びつきが人的・経済的・安全保障などのあらゆる面で深まる中、今後もこの傾向は継続していくことが予想されます。
日本との関わりで言いますと、ウクライナに進出したい日本の企業が、まずはポーランドに拠点を持ったり、ポーランドの企業と協業して、ウクライナ進出を目指すケースが十分想定さえます。ウクライナの専門家であるJoinJapanのメンバーも頻繁にポーランドを訪問しており、現地の知見を溜めております。現地の生の情報をお聞きになりたい方からのJoinJapanへのお問い合わせをお待ちしております。
関連情報