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ウクライナのデジタル国家実現の肝となるのが「Diia(ディーヤ)」。2020年にローンチされたメイド・イン・ウクライナのDiiaアプリは瞬く間に国内に浸透。今ではDiiaで運転免許証やパスポート、住民票を表示させることができるほか、結婚手続き、軍務証明書、大学の卒業証明書など身の回りのほとんどすべての行政手続きがこのアプリ内で完結するようになりました。未だ、運転免許証のデジタル化の可能性の議論で止まっている日本とはすでに周回差がつくほど、ウクライナは行政のDXではるか先を行っています。
すでに我々JoinJapanは、このDiiaおよびその開発を主導したミハイロ・フェドロフDX大臣を取り上げています。
Diiaはすでにただのアプリケーションではなく、ウクライナの様々な新規サービスのブランド名となっています。今回皆さまにお伝えするのは、Diiaエコシステムの中の一つ、Diia City(ディーヤ・シティー)です。
ウクライナではIT産業が盛んであり、これを更に振興させることを目的として2021年に導入されたのがDiia City(ディーヤ・シティー)です。特定の条件を満たすIT会社は、Diia Cityの住人(Resident)となることができ、これにより様々な減税措置を受けることができます。
Diia City公式サイト :https://city.diia.gov.ua/en
2024年7月初旬現在で、Diia Cityの住民(参加企業)は1167社を数えます。参加企業の一覧はこちらのページから確認可能。
参加企業には、SoftServe、EPAM Systems、Sigma Software、Luxoft、NiX、AJAX Systems、Jooble、Uklonなどのウクライナの大手IT企業が並んでいます。
また、参加企業は労働組合も組織しており、Diia City UnionとDiia.City Unitedの2団体が存在します。
以下の条件を満たす必要があります:
なお、申請から2年以内に設立された会社で、年間の売上が830万フリヴニャを超えない企業は、「Diia Cityスタートアップ住人」のステータスを得ることができます。
上記の「指定された事業」とは、以下を指します:
申請はDiia City公式サイトのフォームからすべてオンラインで行います。申請に必要な許可や資格はありません。
Diia City公式サイトによると、
の場合、発生する税金の支払いは次の通りです:
以上合計で支払う税金の総額は 15,960 €
上記の通り、年間売上200,000 €に対して、会社および従業員が支払う税金の総額は 15,960 €。つまりわずか約8%の税支払いとなり、IT企業にとっては極めて有利な税環境となっています。他国のIT企業への優遇政策と比べても破格の条件ではないでしょうか。
Diia Cityの税制面における更なる詳細(プレゼン資料)はこちらから確認できます(ウクライナ語のみ):
Diia Cityの住人(参加企業)となる一番のメリットは大きな減税スキームを利用できるようになること。また、住人は、柔軟な雇用形態を利用することができます。例えば一般の企業も利用できる個人事業主契約(個人が個人事業主登録をし、企業に労働サービスを提供する形態)のほか、Diia City限定の契約形態としてギグワーカー契約が利用できます。
〜個人事業主契約について〜
ウクライナのIT企業では、実質的な従業員と個人事業主契約を結ぶことがよくあります。なぜなら通常の従業員として雇用する場合に対し、個人事業主契約だと税金が格段に安く済むからです。つまり、IT企業のオフィスに毎日出社する人(実質的な社員)が、契約上は個人事業主であり、各個人事業主が企業に労働サービスを提供しているという建前です。
しかしこれにはいくつか問題があります。実質的には社員として行動しているのに対し、個人事業主という建前であることによる法的なリスク(例えば個人事業主が顧客に損害を与えた場合の責任所在の確定など)のほか、企業の実質的な売上・支出等が不透明になることなどが挙げられます。
ギグワーカー契約を導入することで、企業は実質的な売上・支出等を開示することができる上で、ギグワーカーとの間で税金に関して個人事業主契約の時とほぼ同等の条件を提示することができます。
上記の他、住人は以下のような特典を受けることができます:
また、ウクライナの法律には英国法の要素が組み込まれており、外国のベンチャー投資家にとって馴染みのある投資メカニズムがDiia Cityの参加企業にも適応可能です。例えば、コンバーディブル・ローン、優先残余財産分配権、ストックオプション、ESOP、表明保証および補償条項、予定損害賠償などを利用可能です。これにより、ウクライナの企業はより資金調達がしやすい環境が整っているのも魅力です。
2024年2月8日、Diia Cityの2周年記念イベントがありました。そこで発表された情報によると、
Diia Cityの住人となれるのは、ウクライナの法律に基づき設立された法人であることが条件です。つまり、ウクライナの法人のみです。
しかしながら、外国企業がウクライナで子会社となる法人を設立すれば、その法人はDiia Cityの住人となることができます。
例えば、韓国のサムスンの関連企業である、SAMSUNG R&D INSTITUTE UKRAINEがDiia Cityの住人として登録されています。この会社は、オランダのSamsung Electronics Benelux BVの100%子会社です。
本記事では、ウクライナでIT企業を運営する際には、Diia Cityのプログラムを活用することで大幅な減税措置を受けることができることを解説しました。ウクライナでの法人登録およびDiia Cityの利用にご興味を持った方は、ぜひ我々JoinJapanまでご連絡ください。我々はウクライナ人の法務・財務スタッフも抱えており、申請の際の書類の準備などはぜひお任せください。