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ウクライナ人にとって、ロシア政権やプーチンに対する憎しみは、単なる敵対感情ではなく、犯罪被害者や遺族が加害者に抱くそれ以上のものだ。彼らは、米国が強硬な圧力・制裁・軍事的脅しを用い、ロシアを屈服させ、プーチンを地獄に突き落とすことを望んでいる。
しかし、米国が真正面からロシアを叩けば、ロシアはより頑なになり、交渉も停戦も遠のく。そこで、米国(世界最強の国)はあえてロシア寄りの姿勢を示し、欧州がウクライナ寄りの姿勢をとることで、ロシアに逃げ道を作り、妥協を引き出そうとしている。これは、単に犯罪者を追い詰めるのではなく、「犯罪者にすら手を差し伸べる」「犯罪者の背後に回り込み肩に手を置く」ことで、ロシアが第三次世界大戦や核攻撃に踏み切る道を封じた上で停戦交渉を行うための戦略的選択だ。
この「褒め殺し戦略」は、さらに多層的な効果を生んでいる。
・トランプの「ロシア寄り発言」や「ウクライナ非難」 は、欧州に危機感を与え、自国防衛の強化を促した。
・ウクライナ国内では怒りが爆発し、ゼレンスキー支持と国民の結束をさらに固めた。
・一方で、アメリカがロシアの味方のように振る舞うことで、プーチンの「NATO対ロシア」という構図が崩れ、国際的な正当性を失わせ、ロシア国民も動揺している。
明日、ゼレンスキー大統領はワシントンでトランプ大統領と会談する。その目的は明白だ。ウクライナのレアアース共同開発と引き換えに、米国からの安全保障を確約させること。もしそれが保証されないなら、ゼレンスキーがワシントンに足を運ぶ理由はない。
そして、この「レアアース交渉」が決着すれば、大打撃を受けるのはロシアだ。ロシアは資源戦略を根幹からやり直す必要が生じる。ウクライナのレアアースや天然資源は、その大半が手つかずで、採掘に必要な莫大な資金も投資戦略も高度なテクノロジーも販売ルートもない。米国や欧州と組むことですべて手に入る。ロシアは静かに、しかし確実に追い詰められていく。
米国の「ロシア寄り」に見える姿勢は、実際にはロシアを封じ込め、交渉のテーブルに縛りつけるための布石であり、ウクライナの存続と戦争の長期化回避のための欧州も含めた外交戦略である。ゼレンスキーとトランプの会談は、単なる外交イベントではなく、ウクライナだけでなく、世界の未来を左右する極めて重要なターニングポイントなのだ。
トランプの発言には、ウクライナ人として強い憤りを感じる。彼の「ロシア寄り発言」や「ウクライナ非難」は、表面上はウクライナの戦いを軽視しているように見える。嘘も多い。しかし、彼の発言を文面どおりに受け取ると、つじつまが合わなくなる。
トランプがこれまでに行ってきたこと、彼の周囲のブレーンらと共に米国内でも激しい戦いを勝ち抜いてきた過去、彼の前評判とは裏腹な第一次政権での実績、そして彼の発言が衝撃的であるにもかかわらず、最終的に何を成し遂げたのか。経済状況はどうだったのか。冷静に振り返れば、そこには計算された戦略があることが見えてくる。
ウクライナで続く3年に及ぶ泥沼の戦争では、すでに多くが壊れ、多くが失われ、数えきれないほどの命が奪われた。ダメージは計り知れない。この戦争(元には戻らないもの)に、何らかの形で決着をつけることは容易ではない。しかし、それをやってのける力があるとしたら、ゼレンスキーとトランプだろう。ゼレンスキーとトランプの情報戦コンビネーションに期待したい。もし彼らの発言をそのまま受け取るだけなら、我々は見誤ることになる。